恋枯らし | ナノ
今日は雨が降った。ザアザアと冷たい雨粒が地面に打ち付けるようにして落ちてくる。私は傘をさしながら濡れた雨道を歩いていた。水溜まりに足を踏み入れると、バシャッと音がして水しぶきが飛んだ。靴が濡れたが、私は構わずそのまま歩いた。鼻歌歌ってスキップでもしたい気分だ。私が今向かっているのは、幸次郎のいる帝国だ。なんでも委員会で遅くなったらしく、傘を忘れてしまったから迎えにきてほしいそうだ。私は二つ返事でOKを出した。迎えに行けば幸次郎に会えるのだ。行くに決まっている。スキップでもしそうな軽い足取りで帝国の校門前に着くと、可愛らしい傘をさした帝国の女の子とすれ違った。急いでいるのか駆け足だ。それに少し顔が紅潮していて、雨に打たれて風邪でもひいているのだろうか。私がじいっと見ていると、その子とばっちり目があった。あ、やべ。私が慌てていると、何故かその子の目が大きく見開かれた。くりっとした小動物みたいな大きな目がさらに大きく見開かれる。私が唖然としていると、その子は猛ダッシュをして逃げて行った。…私何かしただろうか。私はその子の後ろ姿を見送ると、まあいいっか、と幸次郎を迎えに校内に入った。きょろきょろと辺りを見回すと、屋根のある玄関辺りに幸次郎が立っているのを見かけた。見かけた瞬間、私はほぼ反射的に幸次郎の名前を呼んで駆け出していた。


「幸次郎!」


幸次郎は私を見ると、安心したようにふっと微笑んだ。そんな幸次郎が素直にかっこいい、と思ってしまう。私は幸次郎のそのふとした表情だったりしぐさだったりがとても好きなのだ。私が幸次郎に近づくと、幸次郎は傘の中に入ってきた。背の高い幸次郎が傘を持つと、二人で自然に歩き始める。


「悪いな。迎えに来てもらって」
「ううん。全然構わないよ」
「そうか。良かった」
「あ、ねえ、佐久間まだ怒ってた?」
「うん、まあ少しな」
「うわー今度会ったら絶対しばかれるじゃん。あ、そういえばさあ、さっき女の子とすれ違ったんだけどね」
「女の子?」
「うん。なんか目があったら驚かれた」
「驚かれた?」
「うん。私なんかしたかなぁ」


私がそう言うと、幸次郎は黙ってしまった。私は思わず足を止めて幸次郎を見た。何かあったのだろうか。


「どした?」
「いや、何でもない」


そう言うと幸次郎はまた歩き始めたので、私も慌てて幸次郎に合わせて歩き始める。何かあったのだろうか。聞こうとは思ったが、幸次郎の顔を見たら聞ける雰囲気じゃなかったから私は聞かずに話を変えた。
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