恋枯らし | ナノ
桃原は俺の前にしゃがみこんで、持っていた白い箱(救急箱のようだ)を開けて湿布やらなんやらを取り出した。俺の靴と靴下を脱がして(んなもん自分でできると言おうと思ったが、言う気力もなかった)足首をいじり始めた。


「ここ、痛む?」
「別に」
「ここは?」
「…………別に」
「嘘つくなや。痛いでしょ」
「………」
「はい、湿布貼るよ」


俺の二回目の盛大な舌打ちを無視して桃原は湿布を貼りはじめた。本当に妙な奴だ。普通の奴なら俺の舌打ちを聞いて逃げるか謝るかするだろうが、こいつは違う。当たり前のように近づいて話しかけてくる。そんな奴は鬼道達以外に初めて見た。俺の直感だが、こいつは円堂に似てる。見た目とかじゃなくて、雰囲気とかそういうものだ。誰とでもすぐ打ち解けて、丸めこんでしまうような、そんなとこが。源田と付き合っていたのもその性格あってだろう。俺は湿布を貼る桃原の手を見ながら、なんとなく聞いた。


「お前、まだ源田と付き合ってんのか」
「え?あ、うん、付き合ってるよ」
「…ふーん」


これは少し意外だった。もう別れてると思ってたのに。今度は桃原が湿布を貼る手を止めずに聞いてきた。


「ていうかさ、なんで知ってんの?幸次郎と付き合ってること」
「帝国にいた時に源田に聞いた」
「うわー…」
「んだよ?」
「いや、そんとき喧嘩中だったと思うから」
「喧嘩ぁ?」
「うん。なんか幸次郎に"お前なんか彼女じゃない"とか言われたからさ。彼女だと思ってくれてたんだなと思って」
「つーかそれで未だ付き合ってんのかよ」
「まあね。よし、終わった」


桃原は湿布を貼り終えると、「じゃあ円堂くんたちに言ってくるから。不動は悪化しないうちに寮に戻りなよ」と言い残して走り去っていった。ちらりと足を見ると、湿布が綺麗に貼られていた。さすがにマネージャーだけあって手つきも手慣れていた。俺は靴下と靴を穿くと寮に向かった。そういえば源田に桃原の事を聞いたとき、源田は少し悲しそうな顔をしていたのを思い出した。喧嘩中だからだったのだろう。そういえば、源田はあの時「真帝国になってからあいつとは〜」とか云々言っていた気がする。めんどくさかったから無視したが。もしかして、あいつらが喧嘩した理由は源田が真帝国学園に入ったから、だろうか。たぶん、桃原が源田は間違ってるとか云々言って喧嘩したのだろう。もしそうなら喧嘩の原因は俺にある。別に罪悪感は感じない。だがもしそうなら桃原は原因である俺に憎悪の念も見せず、手当てをしたのだ。仮定の話だが、可能性は一番高い。俺は思わず足を止めて振り向いた。ここからだと桃原の姿は見えない。しばらくして俺はハッとして、本日三回目の舌打ちをした。なにしてんだ、俺。
- ナノ -