恋枯らし | ナノ
右足の足首がズキズキと痛い。さっき走った時に足を踏み外してしまい、足首を痛めてしまったのだ。我慢できないほどの痛みじゃないが、それでも走ったりボールを蹴ったりすると痛い。だがマネージャーやら円堂やらに言ったら騒がれるから言いたくないし、とりあえず今は練習が終わるまで我慢するしかない。俺はふうとため息をつくと、ピィー!、という笛の音が聞こえた。休憩の合図だ。皆が疲れたーとか言いながらドリンクを取りに行く。俺はマネージャーからドリンクを受け取ると、皆に見つからないようにドリンクを飲みながら水道がある方に行った。無論、足首を冷やすためだ。水道近くのコンクリート地面にドリンクを置き、水道の蛇口をひねろうとしたら後ろから誰かに話しかけられた。


「不動」


聞き覚えがある、普通の女子より少し低いであるアルトトーン。俺は蛇口をひねろうとしていた手を止めて振り向いた。振り向くと、黒髪黒目の女子が俺の後ろに立っていた。手に何か白い箱のようなものを持っている。こいつはマネージャーの一人で名前は桃原未来。確か、源田と付き合っていたはずの女だ。とは言っても俺がそれを知ったのは俺が真帝国学園を作り上げたころなので、未だこいつと源田の関係が続いてるのかはわからない。ただこいつは雷門中で源田は帝学、学校が違うからそう長くは続かないとは思っている。こいつらは未だ付き合っているのだろうか。まあ、どうでもいいが。俺は桃原をぎろりと睨むと、乱暴な返事をした。


「…んだよ」
「足首」
「あ?」
「足首、痛めてるでしょ」


ぎくりとして桃原を見た。足首を痛めたのは足を踏み外したほんの一瞬、しかも円堂たちにさとられまいと思って気づかれないようにすぐ体制を直したのだ。円堂たちでも気づかなかったのに、桃原は気づいたのだろうか。俺が返事をしないのを見て、桃原が先に口を開いた。


「やっぱし痛めたでしょ。今のうちに手当てした方が良いよ」
「…別に要らねぇよ。終わったら自分でする」
「試合前に悪化したらどうすんの。あ、そうだ。今私の手当て受けなかったら円堂くんと秋ちゃんに言っちゃうよ」
「…………」
「悪化するのも嫌でしょ。練習ならもう終わるし、私から円堂くんたちには言っておくから。ほら、足だして」


少しの間の後、俺が大きく舌打ちをして段差のあるところに乱暴に座ると、桃原は満足そうに笑った。前から思っていたのだ。こいつは俺のことを怖がらずに勝手に近づいて、まるで当然のように話しかけてくる、不思議を通り越した変な奴だと。
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