恋枯らし | ナノ
あれは幸次郎と別れて数日が経った日だった。その日はちょうど学校で社会科見学があった時で、集合場所に行くのに電車を使わなければ行けなかった。私は途中まで友達と電車に乗っていたけれど、友達が途中で降りてしまったので途中から一人で帰っていた。私はやっぱり落ち込んでいて、電車に揺られながら小さくため息をついた。すると、「おい」聞き覚えのある声が私を呼んだ。


「え…不動…」
「なにしょげてんだよ」


声の主は不動だった。そういえば不動と私の家の方向は一緒だったのを忘れていた。私と不動は少し会話をした。だけど内容はあまり覚えていない。私は幸次郎のことを思い出していたから。思い出は温かくて優しくて、それでいて辛い。でも、不動の話の内容には幸次郎の話はでなかったと思う。出たら私はすぐさま反応したから。後から思ったのだが、不動はこの時私に辛い思いをさせまいとあえて幸次郎の話を出さなかったのかもしれない。いやきっとそうだ。なんたって不動は不器用なんだから。しばらくして私の降りる駅になった。すると私が降りようとしたら、不動が一緒についてきたのだ。


「ふ、不動?」
「送ってってやる」


不動はそう言うと、引き止める私の声も気にも止めず、駅のホームに降りてしまった。するとすぐに電車のドアがしまり、あっという間に電車は駅から消えてしまった。


「ほんとにいいの?」
「いーよ。もうおせぇし」
「うん、ありがと…」


言った瞬間だった。私達とは反対側のホームに、見慣れた人物を見かけた。跳ねた焦げ茶の髪に、目の下のペイント。私の心臓はそれだけでドクドクと脈打った。だけどそれだけでは済まなかった。幸次郎の隣に、小柄の女の子が立っていたのだ。仲良さそうに話す彼らを、見てはいけない、と脳が命令する。胸が張り裂けそうな思い。辛い、嫌だ、見たくない。そう思った瞬間だった。ばっと目の前が暗くなったと思うと、強く抱きしめられ、頭を胸板に押し付けられた。不動に抱きしめられたと自覚するのにそんなに時間はかからなかった。


「見るな」


涙が出そうになった。私が、今辛い思いをしていたことを不動はわかっていたのだ。それが嬉しくて、でも幸次郎のことが辛くて悲しくて。なんともいえない気持ちの涙が、我慢出来ずに私の頬を伝わって、不動の服に染み込んでいった。
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