恋枯らし | ナノ
彼女とは、一緒に校門まで歩いた。どうせ放課後だったから帰るつもりだったし、なんだったら家まで送るつもりだった。でも彼女は校門まで来たところでここまででいいと言い出した。


「いいよ、大丈夫。一人で帰れるから」
「いやでも…」
「だってまだ夕方だし、まだまだ明るいよ。大丈夫」
「で、でも」
「それに、ほら、彼女…迎えに来ちゃうんじゃない…?」


俺は一瞬はっとした。そうだ。この子に言わなきゃいけないことが、俺にはあったんだ。俺はぎゅっと拳を握ると、口を開いた。


「あの、そのことなんだけど」


彼女の表情が変わった。遠慮がちな笑顔から一変、表情が固まった。そして今にも泣き出しそうな、悲しい顔になった。いつも綺麗な桜色の唇は、噛み締めているせいで白くなっている。俺は続けた。


「俺、未来とは別れるから、」
「だめ!」


彼女の大声に、俺はびっくりして思わず口を閉じた。いつも大人しい感じの、大声なんて出すような子じゃなかったせいだろう。彼女はだめだよ、と首をぶんぶんと横に振った。


「だめだよ、彼女さんが、可哀相すぎる。こんなの、だめ。源田くんだって幸せになんかなれない」
「まっ、待ってくれ、俺は」
「やめて!聞きたくない!」


彼女は耳を両手で塞いで必死に聞きまいとしている。俺はそんな彼女の手が震えてるのに気づいた。なんで彼女は、こんな辛い思いをしてるんだろい。なんで、俺なんかで辛い思いを。俺は胸が締め付けられるのを感じた。やっぱり、やっぱり俺は。心ではわかっていたことだった。ただ頭が否定していた。理解しようとしなかった。だけど、今は理解できた。彼女を抱きしめた瞬間の歓喜を、胸の高鳴りを俺は忘れていない。それが何かはわかっていた。俺は彼女の手の上に自分の手をそっと包むように置くと、呟くように彼女の名前を呼んだ。彼女が、ゆっくりと上を向く。俺は静かに、ただ確実なる真実を彼女に告げた。


「好きだ」


彼女の目が大きく開かれた瞬間に、俺は彼女の身体を引き寄せて強く抱きしめた。
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