恋枯らし | ナノ
俺はただひたらすら必死に走って、彼女の後を追った。何を言うべきか、とか何を話すとか、本当に何も考えていなかった。たださっきの彼女のあの顔がわすれられなくて、頭に焼き付いて離れなかった。たまらず俺は切なくなって、同時に悲しくなった。だから駆け出した。これがラブストーリーとかのドラマだったら、長い時間をかけて彼女を探して、公園とかでブランコに乗ってる彼女を見つけるものなんだろうが、これはあくまで現実だ。ここは学校だし、俺は運動部。人気のない展開教室辺りであっさりと簡単に追いついてしまった。


「ま、待ってくれ」


止めようとするのに必死で思わず強く腕を掴んでしまった。「いたっ」「あっ、わ、悪い」慌てて掴んだ腕を離した。腕を離してから、途端に会話が無くなる。静かな沈黙の中で、俺は呟くように彼女の名前を呼んだ。だが彼女は振り向きも返事の言葉もなく、俺に背中を向けている。俺はもう一度彼女の名前を呼んだ。だが彼女は変わらずの様子で沈黙を保ち続けている。俺はそこでようやく気づいた。彼女の肩が小刻みに震えていることに。俺ははっとして、彼女の肩を掴んで引き寄せた。彼女の顔を見た瞬間、俺は心臓が止まった気がした。彼女は、ひどく泣いていた。彼女の潤んだ黒瞳からぼろぼろと大量の涙が流れ、頬を伝って、床にシミを作っていく。それが繰り返されていた。彼女は顔に手をあてて必死に涙を堪えている。そして彼女はその控え目な口を開いて泣きながら謝り始めた。


「ごめんなさい、ごめんなさい、わたし…」
「な、なんで謝るんだよ。謝る必要なんかないだろ」
「ごめんなさい、わたし、ずっと一人で、浮かれてた…彼女のこと、忘れてた。ごめん、無神経だったよね、ごめんなさい」


彼女は俺の制止の声なんて耳に入っていない様子だった。ただひたすら、謝り続けた。ごめんなさい、彼女とのことは絶対邪魔しないから。ごめんなさい。そんな風に。やめてくれ。そんな風に言われたら、俺は、未来を、どうしたら。


「源田くんとは友達でいいから、お願い、お願いだから、」


次の彼女の言葉がとどめだった。彼女は泣きながら、必死になって言ったのだ。



「嫌いにならないでっ…」



俺はたまらなくなって、泣いている彼女を抱き締めた。
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