水葬 | ナノ






其処は、全てが白だった。

見渡す限り、白、しろ、シロ。地平線も見えなければ上も下もないようなその場所に俺はぽつんと浮かんでいた。俺は夢を見ているのだと、頭の中でなんと無しに理解して、ゆるりと辺りを見回す。なにもない空間、闇はないが光もまた其処には存在しないのだった。

そんな閑散とした空間のはずなのに、不意に、俺の耳に届いたのは、すすり泣くような控えめな嗚咽。耳を澄まして音のする方を向くと、誰かが、膝を抱えてうずくまっていた。

それが誰なのかは、わからない。まるで靄がかかったような、そこにいるのはわかるのに、姿がよく見えない。ただ、押し殺したような嗚咽だけは妙に鮮明だった。



────────…



「……」

いつの間にか、あの白い空間は無くなっていて、今見えているのは、白いけれどさっきとは違う、見慣れた天井。学校の天井だ。首を巡らして辺りを見るとどうやら保健室のベッドらしい。頭がうまく働かないけれど、結局あのまま倒れたんだなっていうところまで理解した。

「…晴矢、起きたのか?」

カーテンを開いて顔を出したのは風介だ。体温計なんかを持っているが、たぶん今の俺には必要ない。全然体もだるくないし熱くないし、頭の痛みも嘘のようにひいていた。全く、あの体調の悪化は一体何だったんだろう。そして、あの変な夢も。

「…大分良いみたいだな」
「ああ…今は、ただの寝起き」
「そうか」

何でもないように興味を示さないのは如何にも風介らしい。確か校舎内まで運んでくれたのは風介とヒロトだったはずだから、後でまとめてジュースでも奢ろう。窓の外は、もうすっかり晴れていてほんのり赤みが差していた。時計は夕方の五時過ぎ、全く、俺の頭痛といいあの土砂降りといい、あんなにひどかったのにたった一時間程の出来事だったらしい。一体何だったんだ。

「…みんなは、部活か?」
「あ、そうだった」

忘れてた、なんて言いながら立ち上がった風介は、俺に後をついて来るよう促した。話によると、アパートの居候が増えたとか吹雪たちが泣き出してどうだとか。よくわからないのは風介だから仕方ないが、どうやら皆は部活ではなく隣の教室で話し込んでいるらしい。しかも新入りがいるときた。全く何故か今日は非日常のオンパレードだ。

「円堂。晴矢が起きたぞ」
「おお、平気か南雲!」
「…ああ、完全回復したぜ」

軽く返事をして室内をぐるり見渡す。集まっているチームメイトの中心、ふと何気なく目を向けた先には、知らない女がいた。年齢は俺らとそんなに変わらないくらいだろうが、どことなく大人びたその女は、ひどく怯えた目をして、俺を見ていた。

当惑する



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