水葬 | ナノ






ゆっくりと鈍い痛みと共に覚醒する。見慣れぬ白に数回瞬きを繰り返した少女は回らない頭で状況把握を試みるべく無理矢理に体を起こした。

「……」

清潔な白で囲われたような空間、ふわりとした素材の布団。ふと横を見ると寄り添うようにして似通った顔つきをした少年2人が寝息をたてていた。彼らは一体誰なのだろう、よく見ると2人揃って目を腫らし涙の跡を頬に刻んでいる。見たこともない場所、知らない人物。そして何より、ガラス窓から差し込む暖かな光を感じた彼女は茫然として戸惑いを隠せなかった。

「あ…」

夢でも見ているのだろうかとぼんやり窓の外を眺めていると、不意に左側のカーテンが開き赤い髪をした色白の少年が顔を出した。その赤色に一瞬心臓が飛び跳ねたが、よく見ると面前の赤は彼のそれとは少し違う、透明さのある柔らかな緋色だった。少年は安心したように目を細め、こちらにゆっくり歩みを進めた。

「目が覚めたんだね」
「……」
「ちょっと待ってて、みんなを呼んでくるから」

傍らの眠っている少年2人に持っていた毛布を被せて、彼は薄く笑いながらその翡翠色の瞳を再び細めて部屋を後にした。みんな、と言うことはまだ他にも人がいるのだろうか。

自分が目覚める前までいた場所では、人間は1つの場所に5人いれば多い方であったし、こんな清潔な部屋やベッドもそう簡単にはお目にかかれない。何より、彼女は窓から差し込む太陽の光を初めて見た、窓が開け放たれているにも関わらず防護マスクをしていない。今まで見飽きるほど感じてきた汚染された空気と厚い雷雲で覆われた空はそこにはなく、ただ果てしない青空が広がっているのだ。そして彼女は、だんだん覚醒し始めた頭で、ついにある推測に至った。

自分の常識をひっくり返されたような今の状況、それは以前に読んだ古い書物の内容と酷似していた。そこでは、眩しいほどの太陽の光が大勢の人間や生い茂る植物を照らし、柔らかな風が吹き抜けて見渡す限りの青空が広がっている。そしてさらに、壁に掛けられた日付の2010と言う数字。信じられない思いで彼女は自分の手を握りしめた。そう、自分は、私は、きっと、そうなのだ。

「あ、ほんとだ!」
「本当に死んじゃったかと…」
「よかったな」

過去の世界に、来てしまったのだ。

驚愕する



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -