水葬 | ナノ






2011年―――…

雷門中学校では、今日もグラウンドを元気に駆け回る少年たちの姿があった。天気は快晴、サッカーをするにはもってこいの気候に一同皆心を弾ませ楽しそうにボールを追いかけている。そんな中、少年たちの1人である吹雪士郎はちらりとチームメイトに目をやった。

「南雲、大丈夫?」
「あ?…あー、たぶん」

燃えるような紅の髪を揺らして返答する少年の名は南雲晴矢。彼はいつも溌剌として健康な質であるはずなのだが、何故か今日に限って体調が悪いらしい、今朝から頭痛を訴え辛そうに走っていた。周りに心配をかけまいとあえてそのことは皆に知らせていなかったようだが、数名は既に気がついているようで士郎もその1人であった。

「晴矢が風邪とか、雨でも降るんじゃねーの?」
「…バカ敦也…風邪とかじゃ、ねえっつーの」

士郎の弟である吹雪敦也は軽く冗談めかして南雲に話しかける。しかしいつもなら激しく反論してくるか、悪乗りしてじゃれてくるはずなのに弱々しく目を伏せるだけの南雲を見て困ったように兄弟で顔を見合わせた。いよいよ倒れそうな勢いの南雲にキャプテンの円堂が休むよう声をかけようとしたそのときである。

「…雨?」

さっきまでの気候が嘘のように、瞬く間に雲に覆われてゆく空。冷めた雨は屋内を目指して走る彼らよりも早く降り出し、いっきに体を濡らす。各々悪態をつきながらグラウンドから屋内に逃げ込むが、吹雪敦也だけは何故か途中で足を止めた。

「敦也、なにしてるの」
「いや…さっき、何か…」

兄の士郎はいち早く弟に気づき声をかけるが、彼はそのままグラウンドの端を目指して走り出してしまった。そんな弟にため息を吐きつつも士郎は、南雲が涼野と基山にほぼ担がれるようにして屋内に入ったのを確認すると敦也の後を追う。目的の場所に辿り着いて立ち尽くしている敦也。追いついた士郎は敦也が目を離せないでいる“ソレ”を目視した瞬間、息を飲んだ。

「ひっ…」

士郎は思わず恐怖に引きつったような声を出す。彼らが見たものは、生きているか死んでいるかもわからないような、顔面蒼白で倒れている女の姿。それはさながら、まだ2人が幼い頃に起こった雪崩の事故で、冷たい雪の中に力尽きた母親の姿を彷彿させるようだった。

「うわあああああ!!!」

無理矢理に仕舞い込んでいた残酷な記憶が2人の中に蘇る。耳を塞ぐように頭を抱えて絶叫する士郎、言葉を発することさえ出来ないほどに体を震わせる敦也。2人はしゃがみ込んで膝を突き、ただ幼い悪夢の恐怖に駆られながら雨に打たれた。

浮上する



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