夕暮 | ナノ




「え、水鳥ちゃんたちってサッカー部のマネージャーなの?」
「アタシはマネージャーってほど動いてないよ、たまたまね」
「だって…神さま、撮りたいし…」


お昼ご飯を食べながら、友人の意外なカミングアウトを聞いてしまった。茜ちゃんがサッカー部のキャプテンに首っ丈なのは知っていたけど、まさか水鳥ちゃんまでもがサッカー部と関わっていたなんて。


「サッカー部に興味があるの?」
「興味っていうか、文化祭委員で一緒の奴がサッカー部なんだ」
「へえ、誰だよ?」
「速水って奴」
「ああー、あの眼鏡か」


眼鏡で認識されている速水に少し笑ってしまった。そう言えば私は帰宅部だからサッカーの練習なんか見たこともないんだっけ。速水は見た目こそ頼りないが、仮にもサッカー部なのだからそれなりに運動は出来るのだろう。いったい速水ってどんな選手なんだろう。正直、速水が格好良くシュートを決めている姿なんて想像も出来なかった。


「あ…写真、あるよ?」
「写真?速水の?」
「うん。…はい、これ」
「あいつ、スピードだけはピカイチだからな。もうちょっと堂々としてりゃいいのにさ」


写真の中の速水は、そんなにいつもと変わらなかった。ひょろい身体、女子みたいなピッグテール、トレードマークの丸眼鏡。でも、まあ、何て言うか、凄く汗をかいていて、凄く必死な顔でボールを蹴っていて、ちょっと、格好良く見えないこともない。普段おどおどしている分、こんな真剣な顔も、強い眼差しも出来るんだと妙に関心してしまった。


「へえ…案外頑張ってるんだね」
「…つゆちゃん、もしかして速水くんのこと、気になってるの?」
「え?」
「だって、何か嬉しそう」
「確かに!無駄ににやけてるぞー!」
「えっ う、うそ!」


ないないないないない、あの速水に限ってそんなことは、絶対ない。はず。だって男のくせに弱っちくて暗いし、そりゃちょっとは責任感や優しいところもあるみたいだけど、背だけ高くていつも人の後ろをついて回ってるような奴なのに。


「何なら今度サッカー部に来ればいいじゃねーか。速水見放題だぞ!」
「見放題ってそんな、私は」


何だか大変なことになってきたような気がする。私はただ速水と文化祭委員になって、前よりはちょっとよく話すようになって、思ってたより駄目駄目な奴でもないのかなって、ほんの少し見直しただけだ。そこには別に恋愛感情なんてないのに、こうやって冷やかされると無駄に恥ずかしくなる。


「決まりな!絶対だぞ!」
「約束、ね」


狼狽える私を見て何を勘違いしたのか、二人はニコニコと笑顔を作った。途端に鳴りだすチャイム、昼休みが終わる。今日の放課後には小道具の調達なんかで速水と会うのに、これじゃあ気まずくって困る。何とか平常心を保つしかないのだ。
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