青砥 | ナノ




屋敷に戻ってからの流れは、とても目まぐるしかった。母さんにはこっぴどく叱られたけれど、目元が少し赤くて、父さんには頭を撫でられた。心配をかけたなと実感する。思わず俯いたら、二人してぎゅっと抱きしめてくれた。

子供の処分は、旦那様の一存であっけなく決定する。来てしまったものは仕方ない、うちで面倒見ようじゃないか。奥様は呆れたように笑っていたが、通常は有り得ない決断に大人たちは揃って動揺した。本日港に到着した外帰船は降矢家のものだけだったから、子供が降矢の船にこっそり乗り込んでここまで来たのは明らかだ。食料が少しずつ無くなっていたことも確認されている。最近は宗教だの密売だので、外来のものは須く政府の目が厳しい。子供と言えど密航してきた異国物を抱え込むのはいただけないはずだった。次に出航する異国行きの船に同行させるか、悪ければ役所送りになってしまうだろうと考えていた私は、驚きの答えに思わず喜んだ。子供だって、きっと何か目的があって船に忍び込んだのだろう。それなりの目的がなければ、わざわざ故郷から単身未知の国まで赴くはずがない。そこまでして果たしたい目的を達することなく、早々に故郷へ送り返されるのはあまりに不憫だし、役所に送られれば乱暴で南蛮人を嫌う役人に何をされるかわからない。

「きっとこれも何かの縁だ。それに、むこうの国の方々には大変お世話になったからね」

朗らかに笑って子供の頭を撫でる旦那様に、大人たちはやれやれと肩の荷を下ろした。南蛮人を毛嫌いしている数名は苦い顔をしていたが、主人の決断に反論するものはいなかった。子供は、異国から旦那様へ預けられた鍛冶見習いという体で、後日正式に入国手続きを行うことになるらしい。騒動はあったものの、手続きをすれば役人に追われることも無くなるだろう。旦那様は凄い。その機転の良さと豊かな発想が商売で成功する秘訣なのだろうと父さんは言っていたけれど、それ以上に義理堅いところや寛大さに私は尊敬せざるを得なかった。

「よかったね」

笑いかけながら頭を撫でると、子供は首を傾げる。議論の最中もずっときょろきょろしていたから、きっとまだ状況をよくわかっていないのだろう。言葉が違うのだから仕方ないが、少なくとも次に降矢が異国に旅立つまでは共に生活することになるのだし、どうにか意志疎通を図らねばならない。世話焼きの竜持くんはさっそく明日にでも異国の語学書を買いに出かけると言う。虎太くんは反応が面白いのか子供の旋毛を突っついて遊んでいる。そんな二人を私は眺めていて、私の隣に腰掛けた凰壮くんは、面倒臭そうにため息をついた。


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