青砥 | ナノ




「で、その子は一体なんです?」

そう言いながら子供の方を顎でしゃくって腕組みをしているのは二男の竜持くんだ。少しの間泣いていた私の後ろで、子供は三つ子から隠れるように息を潜めていた。とりあえず出迎えに行く途中に引き返したところから順を追って説明する。すると不意に、長男の虎太くんが一歩前に出た。本当に悪気などなかったのだろう、何気ない動作で子供が被っていた麻布を掴んで、そのまま引っ張った。当然と言えば当然の動作だった。話の渦中の人物が姿を隠しているというのは、彼の中では少し無礼に映ったのかもしれない。そもそも役人に声をかけられたのは子供が怪しまれるような格好をしているせいなのだから。しかし、子供はそれに激しく抵抗した。これもまた当然のことだった。子供は自分の容姿のおかげで役人に追われる羽目になったわけだし、いきなりのことに驚いたというのも理由にあるのだろう。そのまま三人に背を向けて座り込んでしまった。

「……何で隠すんだよ」
「こ、虎太くん待って。ちょっとだけ」

私は慌てて膝を折って子供と目線を合わせる。顔にかかっていた布をそっと押し上げると、あの美しい青が私を捉えた。大丈夫なのか、とでも言いたそうに困惑した顔をしている。私は出来るだけ安心させるように子供の頭を数回撫でて、ひとつ頷いた。戸惑ったように瞬きを繰り返していたものの、少しの間をおいて、子供は決心したようにゆっくりと立ち上がってくれた。すかさず虎太くんが、あの青を隠していた布を引っ張る。今度は抵抗しなかった。現れた姿に、三人が息をのんだのがわかった。

「げっ、南蛮人じゃん」

あからさまに顔をしかめたのは三男の凰壮くんだ。虎太くんは眉をひそめ、竜持くんはため息をついた。そういうことですか、と呟いたところを見ると、南蛮人の不法入国者が逃走したという伝達は彼らにも届いていたらしい。あろうことかその不法入国者を、妹分の私が匿っていようとは。特に竜持くんは頭を抱えてしまったようだ。考え込むように眉間にしわを寄せている。子供は居心地が悪そうに私の後ろに半分だけ隠れた。

「どうして庇ったんですか?下手をしたら貴女も罪人扱いですよ」

難しい顔をした竜持くんが叱るような口調でそう問いかけた。どうしてと聞かれれば答えはひとつだ。こんな小さな子供を放ってはおけなかった。あんなに怯えていて、それでも逃げようと必死に走ったところに私が居たのだ。助けられるなら助けたいと思っただけだ。その旨を伝えれば、竜持くんは困ったようにため息をついた。凰壮くんが、それで自分の身が危険に晒されるなんて馬鹿みたいじゃないかと言った。確かにそうかもしれない。でも今こうして、繋いだ手を握り返してくれる、小さなぬくもりを守れたことが、私はどうも嬉しくてたまらない。


「とにかく、一旦屋敷に戻ります。父さんにも意見を聞きたいですし、今後どうするか考えないと」
「迎えをよこした方が良いんじゃないか?大通りでまた絡まれた面倒だろ」
「それもそうですが…あ、凰壮くんがその子を担いだらいいんじゃないですか?荷物に見せかけて…その方が時間の無駄を省けます」
「はあ?やだよ何で俺が!」


非難を口にするものの、私の気持ちをくんでくれる三人は優しいと思う。本来なら私のこの我が儘は、降矢家にとって悪い要素でしかない。今からでも子供を役所に突き出すのが一番妥当だ。しかし、下手をすれば政府からお咎めをもらうことになるかもしれないのに、それでも真剣さが伝わったのか、私の気持ちを出来る限り尊重してくれるのだ。ありがとうございます、と頭を下げると三人が三人とも照れくさそうにそっぽを向いた。きょとんとしていた子供は、そんな私と三人を見て、なんと私に倣うように頭を下げる。その姿には一同思わず破顔した。


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テーマ「人外ファンタジー」
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