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「別れよう」

その言葉を彼に切り出したのは、私の方だった。

「……」
「ね、」
「…ああ」

小さく聞こえた肯定の返事は、冷たく白い吐息と一緒にふわりと空気に溶けていった。ビー玉みたいな蒼い瞳が一瞬だけゆれて、私の視界も小さく歪んでゆく。傍らを通り過ぎるとき風介は私を見ていた、眉間にしわを寄せて険しい表情で。私ね、知ってるのよ。その顔の意味も、貴方の言いたいことも、私たちが同時に願って止まないことがどうしたって叶わないってことも。私の後で背中合わせのまま、風介が立ち止まった気配がした。私たちの距離はほんの数歩しかないのに、その物理的距離でさえ悲しいことに出来てしまった溝を深める要因でしかのだ。

「…愛してた」
「……」
「たぶん、今も」
「……」
「きっと、これからも」
「、うん」

また、すれ違ってしまう。どうして私たちは共に歩くことができないのか。ついに零れた水滴はきっと彼には気づかれていないはず、本当はね、相槌を打つので精一杯なの。私だって、愛してる、今までもこれから先もきっと風介を愛してる。でもそれでは駄目なのだろう、私たちは大人になる過程の中で恐らく間違いを犯してしまう。私も風介もお互い傷つくことになる。それでは苦しすぎるんだ、そんなの耐えられるはずもない。私たちの溝は、知らない間にこんなにも深まっていたんだ。どうしようもないくらい、深く深く。

「ばいばい」
「…季結、」

最後の台詞は、私の名前。愛しい人が最後に私を呼んだ、まるで引き留めるように。でも、私は振り返らない。今このとき私に願い請う覚悟があったなら、風介は頷いてくれただろうか。きっといつもみたいに笑って抱きしめてくれただろう。風介なら、どんなに深くても私と一緒にどこまでも堕ちてくれる。でも、それじゃ駄目なんだ、それじゃ苦しいんだ。頬を伝う涙が冷たい、雪は容赦なく私を凍らせてゆく。

さよなら、愛しい人。本当に愛していた、一生に一度の大事な恋だった。でも、これが最後です。どうしようもなくやるせないのは私も一緒よ、できることならずっと傍にいたかった。ピリオドは最後の最後に小さく小さく打つものだ、誰もが忘れてしまうくらい呆気なくて曖昧なのだ。あんなに好きだったのに、否、今でもこんなに好きなのに、そう思っているのは私も同じ。私たちの愛は、所詮許されることない恋の延長線上の産物でしかなかったのよ。

愛埋 / 20100215


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