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おかえり、彼女が言ったのはそれだけだった。

影山の策略にまんまとはまり不動の口車に乗せられて、友を傷つけて。ボロボロになって帰ってきた俺たちを見た彼女は、ただ悲しそうに目を伏せて苦しそうに笑った。そしてただ、おかえりと。

「…季結」
「どうしたの?」
「…ごめん、」

心配をかけたのだと、わかってはいたけれど苦しそうな笑顔を見て痛感したんだ。俺は、本当に取り返しのつかないことをしてしまったのだ。

振り返った季結は瞳にいっぱい涙をためて、それでも口元には無理をして笑顔を携えていた。

「怒ってない、よ」
「…嘘つくなよ」
「怒ってないよ。…ただ」

怖かった、と。彼女はその一言だけを呟いた。怖かったと。あの力に魅せられてしまった俺たちが怖かった。俺が鬼道を平気で傷つけるのが怖かった。意味もなく勝利を求め続ける俺が、どんどん自分から遠ざかっていくようで、怖かった、と。

「…心配、したんだから」
「うん…」

上がらない腕を必死に伸ばして、彼女の涙を拭った。本当は今すぐ抱きしめて、これでもかってくらい謝りたいのに、それもできない。謝っても許されないほど、否、謝ることさえ許されないほど、俺は彼女を傷つけた。

「ごめん…季結」
「もう、どこにも行かないで…次郎」

もしも、俺の罪を全て無に帰すことができるのならば。もしも、彼女の涙を止める術があるのならば。そう願ってしまうのはやはり狡いことなのだろうか。今の俺では、懺悔の言葉さえ、偽りのように感じてしまうんだ。

「季結、」
「……」
「ありがとう、な」

謝ることさえ罪ならば、君に伝えたいことが山ほどあります。心配してくれてありがとう。傍にいてくれてありがとう。こんな俺を、嫌いにならないでくれてありがとう。

ありがとう。それから、愛しています。だからどうか泣かないで。

懺悔と君と / 20100208


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テーマ「人外ファンタジー」
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