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嫌なことがありました。

きっと他人が聞けばそんなことでなにをそこまでと嘲笑うほど些細でちっぽけな、本当にどうでもいいこと。おそらくゆっくりお風呂に入ってぐっすり眠れば明日の朝にはどうでもよくなってしまうようなこと。けれどその時の私にはそれなりに辛いことだったのです。

「季結ちゃん」

顔を膝に埋めて階段の隅っこに座り込んでいると、頭上から聞こえた妙に気の抜けるような柔らかい声。見上げるとのぞき込むようにその人は私を見ていて、不思議そうに首を傾げながら私の右側に腰を下ろしました。

「士郎くん…」
「どうかしたの?元気ないね」
「え、そうかな…」
「うん、何かあったの?」
「な、何にも?」

曖昧に笑えば彼も困ったように笑って、そして不意に後ろを振り向いて言いました。

「アツヤ、そんなとこにいないでこっち来なよ」

すると少しだけムスッとした顔を携えてその人はこちらへ歩いてきます。右側の彼と同じ顔で、アツヤくんは私をちらりと横目で見てゆっくりと左側に座りました。


「…変な顔」
「アツヤ、そんなこと言わないの!」
「本当のことだろ、湿気た面してんじゃねえよ」
「もう…」

双子の独特な会話が少しだけ可笑しくて私が笑うと2人も笑ってくれました、そして唐突にぽつぽつと色んな話をしてくれました。試合でシュートを決めたこと、みんなで特訓をしたこと、今朝お庭の花が咲いたこと。

そんな日常の小さな出来事の話がその時の私の心には妙に染みて、つらい気持ちが風に溶けて消えてゆくようでした。


「やっと元気になったね」
「え?」
「本当は何かあったんでしょう?」
「…うん」
「お前がへらへらしてないと調子狂うんだよ」
「全くアツヤは素直じゃないんだから。季結ちゃんには笑ってて欲しいってことでしょ」
「ち、ちげーよ俺は別に」
「照れないのー」

励ましてくれてるんだな、と思うとすごく嬉しくて温かい気持ちになれました。2つ分の優しさが私の胸を満たして冷たい心を癒してゆきます。それは、まるで冷たいはずなのにどこか暖かい冬のある日の雪のように私の中に降り積もって悲しみを覆い隠したのでした。


「士郎くん、アツヤくん」
「うん?」
「なんだよ」
「ありがとう、励ましてくれて」
「どういたしまして」
「…別に」

笑顔を取り戻せ! / 20091230


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