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本当は、気づいていたのかもしれない、わかっていたのかもしれない。

「…なにやってんだよ」
「…別に、」

馬鹿じゃねえの。吐き捨てて去っていく不動の手を、とっさに掴んでしまったのはそのためだろうか。柄にもなく、体が震えていた。情けない、悔しい、俺だって男なのに、不動が助けてくれなかったら今頃奴らに何をされていたことか。立つことすらままならないほど怯えきった俺の体は、誰でもいい、安心できる温もりを求めていた。気まずくなって俯いた俺に、小さくため息を吐いた不動は黙って隣に腰を下ろした。まさかコイツがそんな行動をするとは思っていなかったので、驚いた。いつもよりいくらか機嫌が悪そうな不動は、いつもよりいっそう眉間に皺を寄せてそっぽを向いている。

「…なんだよ」
「…いや、別に」

俺の視線に気づいたらしい、同じようなやりとりを繰り返してから、そっと目をそらした。静かに、ゆっくりと流れてゆく時間、風はとても穏やかだ。オレンジ色の夕陽が、屋上を柔らかく染め上げている。沈黙が続いているはずなのに、不思議と嫌な気はしなかった。むしろ、この沈黙が心地よいとさえ感じた。隣にいるのは鬼道でも源田でもなく、あの、いつも孤独で刺々しい、不動なのに、空気はひどく優しい。

「お前さ、」

前触れもなく発せられた言葉に顔を向けると、特に感情の籠もらない鋭い瞳が俺をみている。もうちょっと、自分のことにも気を配るべきじゃねえの。表情も変えずにぬけぬけとそう言った不動は、そのまま立ち上がって行ってしまった。しばし固まる俺。あれは、一応俺の身を案じてくれたのだろうか。それとも、自分のことくらい自分で何とか出来るようになれ、ということが言いたかったのだろうか。どちらにせよ、体の震えや感じた恐怖が既に消えてしまったのは、アイツのおかげに他ならないのだろう。悔しいけど、ひとつ借りを作ってしまったと苦笑しながら俺も立ち上がった。

本当は、気づいていたのかもしれない、わかっていたのかもしれない。

アイツは、不動は、本当はすごく優しい奴なんだ。


理解するということ / 20100917

襲われ佐久間を助けた的な。


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