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イナズマジャパンとの試合。結果は惜敗、俺はと言えば、最後までピッチに立つこともできなかった。ただ、悲しいとは思わない。俺はこのままで終わりたくない、またサッカーがしたい。その思いが今の俺の希望を繋げていた。この敗北は、決して無駄なんかじゃなかったはずだ。負けはしたけれど、得たものもまた大きかった。ただひとつ、引っかかることがあるとすればそれは、彼のこと。みんなもう着替えをすませ更衣室を出て行ったのに、ひとりだけタオルを頭からかぶって俯いたまま。俺たちユニコーンのキャプテン、マーク・クルーガーは着替えもせず更衣室のベンチに座り込んでいた。

「マーク」

彼は今、泣いているのだろうか。表情は伺えない。あのディランまでもが、今はそっとしておいてと声をかけるのを躊躇ったのだから、その落ち込みようは誰が見ても明らかだった。試合終了のホイッスルが鳴ったとき、茫然と得点板を見つめていた。みんなが早々に更衣室へ引き上げる中、膝を抱えたまま暫くコートから動かなかった。コーチが俺の足のことをみんなに伝えたときから、ずっと俯いたままだ。もう見ていられなくてたまらず声をかけると、ピクリと肩が動く。もう一度念を押すように名前を呼ぶと、やっと垣間見えた顔は涙に濡れていた。

「泣かないでよ、大丈夫だから」
「…カズヤ、」

ひとこと俺の名だけを呟いて、再度泣き出したマークを俺はそっと抱きしめた。背中をぽんぽんとたたくけれど、一向に泣きやむ気配は感じられない。誰かが呼びに来るかもしれないという考えが一瞬だけ過ぎったけれど、気にとめないことにした。今はただ、俺の肩口を濡らすマークが早く笑顔になればいいと、ただそれだけを願うことにした。うわごとのように、ごめん、と、カズヤ、を繰り返すマークはまるで赤ん坊のようだった。どれくらい経ったのかはわからないけれど、しばらくすれば控えめな嗚咽も治まってくる。ゆっくり体を離して向き合うと、彼は目元を赤くはらしてひどく情けない顔をしていた。

「謝ることはないよ。俺は、このチームでサッカーが出来て良かった」

曇り顔はなかなか晴れてくれない。いつもの堂々としたキャプテンである人物とは思えないほど弱々しいマークに苦笑して、彼の言葉に耳を傾けた。知らなかった、と。足が悪いなんて知らなかった。痛みに耐えていたなんて知らなかった。あの試合に、大切な意味があったなんて知らなかった。カズヤとサッカーをするのが、最後になるかもしれないなんて知らなかったんだ。震える声で紡がれるその訴えはひどく俺の心に響く。そんなの、伝えなかった俺が悪いのに何故彼はここまで辛そうに顔を歪めるのだろう、俺は後悔してないよ、そう言って笑えばマークの瞳が大きく揺れた。

「それでも、勝ちたかったんだ」

チームメイトとして、キャプテンとして、俺の異変に気づけなかったことへの不甲斐なさ。何も知らずただ笑っていたあのときの自分。無知とはなんと残酷な罪だろう、気づいたときにはもう何もかもが遅かった。マークの涙は枯れることを知らないようだった。ああ、いとしいひと。俺は必ず帰ってくるから、蘇るから。そのときは、キミに笑顔で迎えてほしい、一緒に笑ってサッカーがしたいよ。だからどうか、どうかもう泣かないで。

ありがとう / 20100911


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