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「……」
「……」
「……」

2人はどちらから言葉を発するでもなく隣り合って座っていた。片方はこの沈黙を全く苦に思っていないような、むしろ楽しんでいるような面持ちで、もう片方はちらちら隣の相手を盗み見てかける言葉を探しあぐねているようだ。時刻は夕方、日も傾くこの時間帯に吹雪と半田は一定の距離を保ってベンチに腰掛けていた。何故こんなことになったのかと言うと、世界をかけた韓国とのゲーム中、怪我をして離脱を余儀なくされた吹雪たちを見舞おうと日本に残ったメンバーで病院まで足を運んだというわけだ。ちなみに半田と吹雪以外のメンバーは飲み物を買いに行ったきり戻らない。病室に戻っても特に楽しみはないので眺めの良い庭の隅のこの場所で2人、しばし夕日を見つめていたというわけだ。

「こうやって半田くんと2人きりで話をするのって、初めてだよね」
「え!あ…そ、そうだな」

急に声をかけられ動揺した半田のリアクションに吹雪は楽しそうに笑った。2人が出会ったのは確かに、あのダークエンペラーズとして雷門中で顔を合わせたときが初めて。しかもあの時はまともに話せるような状況ではなかったし、呪縛の解けたその後も各々仲の良い人と話し込んでしまったので、結局挨拶もせずにこの場に至ったのだった。入院中に染岡から吹雪の話を聞いていた半田は吹雪に実際どんな奴なんだろうと多少の好奇心や警戒心を持っていた。

「吹雪ってさ、出身は北海道なんだろ。雪国ってどんな感じなんだ?」
「ここに比べると随分寒くって町全体も淡色に霞んで見えるかな、雪崩…とかもよくあるんだ」

雪崩と言うキーワードを出した途端、一瞬だけ顔色を青くし言葉を詰まらせた吹雪に、半田はしまったと思った。以前染岡から聞いた話によると吹雪は小さいときに雪崩の事故で両親と自分の片割れをなくしているはずだ、辛いことを思い出させるような話題を無意識にふってしまった自分に後悔して、ごめんと一言謝罪すると吹雪は不思議そうに首を傾げた。どうして謝るの、と本当にその意図がわかっていないように聞き返されて余計に気まずくなってしまう。

「その…嫌なこと思い出させちゃったかなって」
「嫌なこと?」
「雪崩の、…その」
「…ああ、その事か。染岡くんに聞いたんだね」

視線を下げて小さく頷くと、横で吹雪がくすっと笑った気配がした。気にしないで、大丈夫だから。その言葉に顔を上げると夕日を見つめながら優しい表情で話す吹雪が目に入る。ちょっと前まではずっとその事を引きずっていたけれど、一緒に頑張ってくれる仲間ができたから。だから、もう大丈夫だと、そう言って笑う吹雪に半田は尊敬を含んだ瞳を向けた。きっと彼は幾つもの試練を乗り越えて、ここまで来たんだ。素直にすごいと思ったし、同時にここまで頑張ってきたのに怪我をして世界を退いたエースストライカーに以前の自分たちの姿が重なった。

「…頑張ろうな、お互い」
「え?」
「怪我、すぐ治してさ。力不足かもだけど俺たちも練習つき合うよ」

そんで、吹雪が世界で活躍してるとこ見せてくれ

瞼をパチパチと上下させて、吹雪は照れたように笑った。そのときは、半田くんたちも一緒だよ。と言う言葉に今度は半田がきょとんとする番だった。そうやって2人で笑いながら話し込んでいると、いなくなっていたメンバーが帰ってくる。何でも、自販機ついでに病院内を案内していたとかいないとか。立ち上がろうとする吹雪を半田が支え、大丈夫か?うん、ありがとう、なんて会話を今日が初対面なはずの2人がするものだから一同揃って目を丸くした。いつからそんなに仲良くなったのさ、と言う松野の問いに半田は笑いながら、別に、さっきだよ。と答えて夕焼けを仰いだ。

繋がり / 20100626


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