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お昼を知らせるチャイムが鳴り響く。周りのクラスメイトたちは昼食をとるために、机をくっつけあうもの、食堂や購買へと向かうべく席を立つものなど様々だ。しかし私は特に何をするでもなく机に頬杖をつきながら外を眺めている。きっと、しばらくすると教室の扉がカラリと軽快な音を立てて開くだろう。そして今日もあの男が、さも楽しそうに笑顔を携えて私の名を呼ぶのだ。

「夢野、昼飯いっしょに食わないか」

我が帝国学園サッカー部のゴールキーパー、源田幸次郎。全国屈指の実力を誇り、サッカー界でもここ帝国学園でも有名な彼が、昼になるとクラスさえも違う私を訪ねてやってくる。もう日常と化してしまったこの光景に、今更つっこむものなどいなかった。小さく笑いながら頷いて手ぶらのまま席を立つ、私はもともと買い弁派だったから、お弁当なんかは持ち合わせていないのだ。一応形だけは購買に行くそぶりをするのだが、今日も源田が、弁当作ってきた、と笑顔で言い放ったので感謝の言葉を述べるだけになってしまう。ふたりで人気の少ない廊下を通って行き着く先は今日も、爽快で風通しの良い中庭のベンチだ。

「どうだ?」
「うん、美味しい」
「そうか」

どういうわけか、男であるはずの源田は何故か料理がとても上手い。いつか店でも開けるのではないだろうか。私の隣で自分のお弁当を広げ、それを食べ始める源田は、確かに好青年ではある。しかし体つきが良いせいか、家庭的という言葉があまり似合っているとは言えないのだ。そんな源田が、どこから調べてきたのか私の好きなものばかり入った、しかしそれでも栄養バランスの偏りが見受けられないようなお弁当を朝から作っているのだと思うと何だか笑えた。急に笑い出した私に首を傾げ、箸を口にしたままで、その理由を問うてくる源田は、普段の凛々しさからは想像もできないような不意をつかれた間抜け面だった。私といるときの源田は、どこか可笑しくて、それでいて、とても新鮮だ。

「何でもない。ね、源田」
「うん?」
「いつもありがとね」

朝早くから大変だろうのに。遅くまで部活にも励んでいる彼への、そんな労いを含んだ感謝の言葉だった。どう解釈したのかは知らないが、嬉しそうに、とても優しく源田は微笑んだ。ただでさえ顔がいいのだ、そんな表情を見せられてはこちらが見惚れてしまうのも仕方のないことである。熱を持ち始めた頬を隠すように、食べかけのお弁当に視線を移す。ところが食べ進めてみると、どうも隣からの視線を痛く感じた。箸を止めて、食事をする私を眺める源田はとても楽しそうに口角をあげている。私は、なに、と今度はこちらから質問を投げかけてみた。

「俺、夢野の食べてる姿を見るのが好きみたいなんだ」

なんか、可愛くて。そう続けて再度あの笑みをこぼした源田は狙っているのかそうでないのか、ひどく様になりすぎているように思う。瞬間的に脈打つ鼓動を隣の男に気づかれないように、でも、どこかで気づいてほしいと願いながら、きれいに焼かれた卵焼きを口に含んだ。私と源田は別につき合っているわけでもないし、特別な縁なんかないけれど、今このときを彼と過ごせているという事実だけは確かにここにあるのだ。ともすれば明日にはなくなってしまうかもしれない曖昧な関係だけれど、穏やかなこの日々が少しでも長く続けば良いと、そう切に願う。

初恋 / 20100801


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