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「季結ー!」

笑顔でこちらに手を振るニースを軽くあしらってパラソルの下に腰掛けた。一応、つきあっているらしい私たちはサッカー部の面々も連れ添って海に来ているわけだが、如何せん顔の良い奴らを連れていると周りの目が痛い。別に私が誘ったわけではないので気にすることもないのだけれど、せっかくの休日に恋人以外のことで頭を悩ませている自分に腹が立った。

「季結、泳がないのか?」

私が暇そうに見えたのか、ただ飲み物を取りに来ただけなのか、近寄ってきたニースに、暑いから、と曖昧な返事をした。ビーチバレーをしているみんなとそれを取り囲んで黄色い歓声を上げている女の子たちの群れへ戻っていたニースを見送ってため息をつく。行かないでとか、可愛いことの一つや二つ言えれば良いのに妙なプライドがそれを許さない。ニースは海の貴公子とまで呼ばれているんだから、こうなることは仕方ないんだって、そう決めつけて自分の気持ち一つ伝えられない。そんな私が臆病である以外の何者でもないことくらい、わかっているはずなのに。麦わら帽子を深く被りなおして折り畳んだ膝に顔を埋めた。

「季結、季結!」

どれくらいの時間が経ったのか、急に名前を呼ばれ顔を上げるとニースが笑っていた。あんなに集まっていた人間たちは誰もいない、無人のビーチには私とニースだけだった。空を見ると、日は少しだけ傾きかけているもののまだ蒼い。ビーチバレーはやめてしまったのだろうか、完全に外界の感覚を遮断していた私にはどうしてみんながいないのかわからなかった。太陽の熱に浮かされて体温の上がった私の手を、同じく熱いニースの手が握った。ついてきて、と私を立ち上がらせたニースは浜辺の端を目指して歩き始める。

「ねえニース、みんなは?」
「何か食いに行ったんじゃないか?」

食事に行ったらしいその集団に明らかに入っていなければならない人物であるはずの彼は、何でもないようにそう言い放った。みんなの人気者がどうしてここにいるの、そう言おうとして口を開いたけれど音にならなかった。素直に喜んでいる自分に驚きながらニースと向かった先は、岩場のようなところで人目から離れた静かな場所だった。

「…ほら、見て」

ニースの指差す方向を目で追っていくと、そこには宝石のような熱帯魚や珊瑚礁の散りばめられ水面。澄んだ海水は太陽の光を反射してきらきらと輝き、水中の魚たちをよく映していた。思わず感嘆の声をもらすと、隣で満足そうに笑う気配がする。ここなら暑くないだろう?と繋げられた言葉にハッとニースを見返す。もしかして、私が暑いと言って動こうとしなかったから気を使ってくれたのだろうか。ただの嫉妬心からきた幼稚な文句を真摯に受け止めてくれたことに対しての喜びと最低なことをしてしまっていた自分への後悔に眉を寄せと、わかっているのかいないのか、煌めく水中から目を離してニースは笑った。

「それにここなら、2人だけでいられる」

元来私は涙もろい、潤んだ瞳を隠すように彼に抱きついた。ちょっとだけ驚いたように一瞬硬直したニースは、それでもゆっくりと私を抱きしめ返してくれる。素直な気持ちを今なら伝えられる気がする、優しくて暖かいニースの傍にいるこのときだけは、自分の心を開ける気がする。ごめんね、じゃなくて、ありがとうと。精一杯の感謝と愛を口ずさむ。ニースも嬉しそうに笑って、小さく私に口づけた。

きらきら ゆらゆら / 20100719


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