影山 | ナノ





「…お久しぶりです、  」

あまりにも簡素なそこに、そっと白い花束を添えた。花なんて、貴方には似合わないかもしれませんね。いつの間にか月日は流れ、早いもので俺たちは、既に成人式を終え各々の道を歩み始めていた。そのままサッカーを続ける者は、少ない。けれど、あの日々、あの瞬間、確かに感じた熱は、今も胸の中に宿っている。

「おいおい、いつまで墓参りしてるつもりだよ」
「フィディオくん達、もうそろそろ空港に着いてるはずだよ。僕たちも迎えに行かなくちゃ」
「ああ、今行く」

ここ、影山総帥の眠る場所には、以前から俺と不動、アフロディの3人でよく訪れていた。影山と特に強く関わりを持った3人。他の奴らも、頻繁ではないにせよ訪れていると聞く。そして今日は、フィディオやデモーニオたちが、久々の再会と観光も兼ねて、影山総帥の墓参りのためにやってくることになっていた。

「彼らに会うのも本当に久しぶりだよね、何年ぶりだったかな?」
「高卒のとき以来だから…3年ぶりくらい、だな」
「3年か…早いものだな」

本当に、早かった。俺の中では、貴方との日々が、まだまだ鮮明に思い出されるのに、それでもこうやって懐かしんでしまうほど、俺は年をとってしまったようだ。貴方の残した軌跡は確かに俺たちの中に刻まれて、まるで呪いのように消えず、まるで宝物のように仕舞われ続けていくのだと、それほど俺たちは、貴方のことを慕っていたのだと、今更わかるなんて、皮肉なものです。


空港で迎えたフィディオたちは相変わらず元気そうだった。軽く談笑しながら来た道を引き返す。さっそく墓参りに行こうというわけだ。しかし、チームメイトたち全員を引き連れて行くのも迷惑だろうということで、結局5人での訪問となった。

「日本のお墓は渋いよねえ」
「十字架も似たようなもんだろ」
「はは、確かに」
「フィディオ、何だそれは?」
「ああ、これ?」

フィディオが大事そうに、そっと墓前に添えたのは小さな箱のようなもの。「ルシェからね、預かってきたんだ」と、優しく笑って箱を開く。流れ出す繊細なメロディー、オルゴールだ。昔、総帥自身が彼女にプレゼントした、オルゴールだった。

「この曲はね、イタリアの鎮魂歌のひとつなんだ」
「遠く離れてしまった人を思って、会えないとわかっていても、それでも帰りを待ち続ける歌だよ」
「…そうか」

そのメロディーは、空に、風に、あの日々に、切なく響く。俺たちの心に木霊する。影山総帥、貴方の居場所は、こんなところにもありましたよ。帝国学園も、イタリアも、サッカーフィールドも、貴方の居場所だった。影山総帥として俺を導いた貴方も、影山零治として自分の野望を追い求めた貴方も、ミスターKとして彼らに好かれた貴方だって、確かに、意味あるものだった。貴方の人生は、命は、決して無駄なんかじゃなかった。犯した罪は消えなくても、貴方は俺たちの大切な人だった。そう思うんです。

(思い出にしがみつく)
(淋しさはある)
(けれど、振り向きません)
(だから、いつかまた)
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