アイラブスタンド! | ナノ

 私の最近の楽しみは、億泰くんのスタンド、ザ・ハンドを困らせることである。能力は、億泰くんの単純な脳ミソと同じように単純明快で、右手で何もかもを削り取ってしまうものだ。
 初めて私がハンドを見て、「なにそのイカついペット?」と聞いたときに、億泰くんは「お前もスタンド使いなのかよ〜ッ?!」と勝手にわけ分からん解釈して(億泰くんは馬鹿なので、そのまま勘違いさせておくことにした。ちなみにスタンドについては後から、仗助くんの親戚らしいジョータローさんが教えてくれた。)こいつの能力はハンパねぇからな!あんまり気安く近寄るなよ!と目の前で、地面を削り取る所をドヤ顔で見せつけられたことを良く覚えている。

 少し話は変わるけれど、女子高校生ってのは、年上の男性とか、教師とか、バリバリのキャリアマンとか妻子持ちとか、そんなアブノーマルな男に惹かれてしまう年頃である。
高校生真っ盛りな私は、そんな世の常に習って、何もかもをその右手で削ってしまうという能力を持つハンドに惹かれてしまったのだ。


「ねえ、ねえ、ハンドのその右手指でなぞったら、指先からだんだん削られて無くなってっちゃうのかなあ?」
「ンな恐ろしいこと想像するなんてどうかしてるぞ、なまえ」
「私はハンドに聞いてるんだけどー?」
「ハンドは俺みてーなモンだろが!」
「全然違う。億泰くんと違って、ハンドは頭いいもん」


 億泰くんが私の言葉に怒る様子を見て、あわあわとなだめようとしているハンドが可愛い。


「ハンド、私と手つなごうよ」


 そう呼びかけると、ハンドは、私の方をキョトンとしばらく見つめたあと、もげそうな勢いで思い切り首を横に振った。「えー?なんでだめなの?」私が、追い打ちをかけようと体を寄せると、私よりずいぶん大きな体をしてるくせに、2.3歩後ろに下がってしまった。


「つーかよォ、お前そんなにドSのくせに、なんで俺に『くん』なんて付けるんだよ」
「…今私はハンドと手がつなぎたいのに。まあ、ポリシーよ、ポリシー。男の子からはとりあえず距離をとりたいの」
「フーン?なんでだ?」
「男の子が苦手だから」


 私の返答に、えええええ?!とダミ声で奇声を発した億泰くんが、ハンドと顔を見合わせてウソーッ?!みたいなジェスチャーをしている。なによ、見せつけてくれちゃって。しかも、ちょっとだけ微笑ましいし。ここで名案を閃いた私は、少し大げさにうつむいて口元に手を持っていく。

「ハンドと億泰くん仲良いね…いいなあ、私だって、ハンドと仲良くしたいのになあ…」

 声の震わせ方も体を少し小さく縮こませるのも、言葉の区切り方も完璧。今の私は、二人が羨ましくて仕方ない可愛い女の子だ。オ、オイ!と慌てた様子の億泰とハンドの気配を確認して、にやける口元がばれないように私は演技を続けた。


「私、いっつも無理なこと言ってごめんね…もう、二人の邪魔はしないから…っ」


 やばい、ちょっとやり過ぎたかなあ…と思いながらも引き返せずにいると、ハンドの左の手の指が私の右腕をつついた。私が顔を上げると、右は無理だけど、左手でもいい?と私に左手を差し出すハンドがいた。その可愛さに、胸を撃ち抜かれながら、ありがとう!と手を取る。初めっからハンドの右手とどうこうして、私の体を削るつもりは毛頭もなく、冒頭で言ったように、ハンドを困らせるのが目的の私は、これが今日の最終ゴールの形だったと言える。大満足な私が、ふと横を見ると、心配そうに私を見つめる億泰くんがいた。


「なあ、なまえ、元気でたかァ?もう泣いてないのか?」


 初めから1ミリも泣いてないわよ、と言いたいのを堪えて、私は頷く。それを聞いた億泰くんは、そうかァ!そんなら良かったぜ!と満面の笑みを浮かべるものだから、私は、反射的に左手を差し出していた。


「?」
「……億泰とも手、つなぎたい」
「エ?」
「っ早く、ハンドと二人で帰っちゃうからね!」
「お、おう!!」


 結局、右手はハンドと、左手は億泰くんと手を繋ぐことになってしまったのだけれど、こっちが、ほんとにほんとの最終ゴールだったのかな、なんてふと思った。ハンドと億泰くん、二人ともなんか楽しそうで、私も嬉しい。


「つか、なまえ、さっき名前…」
「うるさいよ億泰くん」
「へへ、ま、いーか!」

 


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