アイラブスタンド! | ナノ

 ずっと、ずっと気になっていた。東方くんの後ろに控えめに控えている、(駄洒落を言おうと思ったわけではない)人間や今まで発見されてきた生き物ではない誰か。人間には見えないのだけれど、一応人の形をしている彼は、いつも優しい顔をしている…気がする。急に彼の姿が見えるようになっていて、もしかしたらいつの間にか、私が潜在的に持っていた霊感的なものが覚醒したのかもしれない。そう思っていた。しかしながら、話したことなんてほとんどない東方くんに「ねぇ、何かにとり憑かれてるみたいだよ?」なんて言ったりなんかしたら、何言ってんだコイツってなるだろうし、彼の取り巻きの女の子たちから、何よこのブス!意味深なこと言って仗助くんに近付こうって魂胆ね!キィ〜ッ!…なんて制裁を受けることになりかねない。

 だから、気にはなっていたのだけれど、ずっと東方くんの背後霊さんのことは私の胸にしまっていた。

 ある日のこと、私は、所属している図書委員会の仕事として、新しく学校が入荷した本を図書室に運んでいた。段ボールから本を取り出して、二階の図書室に運ぶ。ただそれだけの単純作業だったものだから、今日の夕飯は何かなあ、なんて上の空で作業をしていた私への天罰なのか、段ボールを開ける際に使用したカッターで、何を間違えたか、ザックリと指を切ってしまった。ダラダラと血が流れていくのを見て、痛いというよりも、新しい本が血で汚れてしまう!という危機感に襲われた私は、慌てて立ち上がる。何かで止血しなくちゃ、あ、でもカッターは酷く汚れていたからまず水で洗った方がいいのかな…なんて、頭の中でパニックを起こしていると「お、おい!大丈夫か!」という声。振り返ると、東方くんと背後霊さんがいた。え、どうしてここに、なんていう暇もなく、東方くんは私の血だらけの指を取り上げた。『クレイジー・ダイヤモンドッ!』そして、私が瞬きをしている間に何かが起きたのだ。


「え、うそ、なんで…?」


 さっきまで、なかなか止まりそうになかった血が綺麗に止まっている。綺麗に出血が止まったどころか、傷跡すらなくなっている。もし、他の場所が血で汚れていなかったら、さっきのは幻覚だったのかと考えてしまうほど怪我の跡形がない。驚いている私に、東方くんは気まずそうに話しかけてきた。「あのよォ〜、まぁなんだ、俺怪我とか治せるんだわ…あんまり気にしないでくれると助かるぜ」「背後霊さんさんが治してくれたの…?」私は、つい背後霊さんのことを口に出してしまう。だって、背後霊さんは東方くんの背後から現在進行形で飛び出して、胸前霊(そんな霊の名称があるのかは知らないけど)になっていたし、その拳は、赤い血で汚れていたから。ぽかんと口を開けたまま私を見つめる東方くんに、一瞬しまった、と思ったが、もう後には引けなかった。「あのね、東方くん。驚かないで聞いて欲しいの……。お医者さんの霊に、憑かれているみたいだよ」


 その後、ひたすら笑い続けた東方くんから、背後霊さんは背後霊じゃあないっていう説明を聞かせてもらえたのは、それから10分も経った頃だった。


「え、じゃあ、クレイジー・ダイヤモンドさんっていうんだ。」
「まあな」
「こんにちは。なまえっていいます。今日は指を治してくれて、本当にありがとうございました。」
「…!」
「そんなお礼言われるようなことは、してねぇつもりだぜ」


 私が深々とお辞儀をすると、東方くんは慌てて両手を胸の前で振った。ふと顔を挙げると、クレイジー・ダイヤモンドさんも同じようにしている。なんだかよく見れば、2人はとっても似ている気がする。優しくて、頼り甲斐のありそうな所なんかが、とくに。背後霊さんもとい、クレイジー・ダイヤモンドさんは、今日も優しい目をしていた。

 


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