※音駒のマネージャーで黒尾と孤爪の幼なじみ 部活終わりの帰り道。家が近い私たちは、いつものように同じ方向に向かって並んで歩く。ただ、いつもと違うのは、並び順と会話の盛り上がらなさだ。普段、鉄くんと研磨に挟まれて他愛ないおしゃべりをしながら歩く私が、今日は一番左端にいて黙っている。 「ねえ…ちょっと…」 私と鉄くんの間に挟まれた研磨が、非常に迷惑そうな声を上げる。鉄くんの方を一度見上げた研磨は、次に私の顔を見つめる。研磨には申し訳ないけど、私は、今回こそ折れるつもりは全くない。だって鉄くんが悪いもん。ふくれ面を作ったまま何も言わない私を見て研磨は大きなため息をついた。鉄くんはその隣で「うわ、ぶっさ。」と暴言を吐く。『ぶっさ』って私のことですかそうですかこのトサカ男!言い返したくても鉄くんこと黒尾鉄朗に口で私が勝てるわけがないので、ガン無視で応戦する。 「一体何があったの…」 研磨が口を開くと、ちょうど目の前の信号も青から赤に変わる。だんまりを決め込む鉄くんと私に、研磨は本日二回目の大きなため息をこぼした。すると、いい加減にしないとおれ怒るけど。と小さくいつもと同じテンションでつぶやかれた研磨の言葉が耳に届く。(やばいこれはもう怒ってる…。) 研磨は感情の起伏が他の人と比べて顕著に少ない。けれど幼馴染の私たちの前では、それが少し豊かになるのだ。それはとても嬉しいことでもあるけど、怒った研磨は…結構怖い。 「だ、だって鉄くんが!私が音ゲーしてたのに邪魔したんだもん!」 「なまえは、ゲームくらいで大げさなんだよ」 「……….はあぁぁ…」 双方の第一声を聞いた立派なプリン頭の研磨クンは、三度目にして一番大きくて長いため息をついた。その後の彼の無言の威圧感に気圧されそうになりながらも、私が鉄くんとの喧嘩のいきさつを説明する。いまドハマりしている音ゲーは、いわゆるソーシャルゲームってやつで、体力が回復しないとプレイできないものだ。当たり前だけど、音駒のマネージャーとして部活が終わるまではゲームはできない。だから終わったらすぐやろうと決めていた。しかも私がしようとしていたのは、EXPERTの曲。つまりすっごく集中しないとクリアできないレベルの難易度の曲だったのだ。 「それなのに…それなのに…鉄くんが…!」 「後ろから声かけただけだろうが」 「肩も触った!」 「おいおい、おれがセクハラしたみたいに言うなよな」 必死になって指を動かしていた私に鉄くんが声をかけてきて、そっちに一瞬意識が向いてしまってそこからリズムが総崩れになり、案の定、画面にはGAMEOVERの文字。研磨に説明するうちにあの時の光景が蘇ってきて、興奮してきた私に対して鉄くんは、私の怒りなんてどこ吹く風といった感じで飄々としている。信号が青になって、歩き出しても私たちの口喧嘩は止まらない。でも、しばらく黙っていた研磨が突然口を開いた。 「いいかげんにして……クロ、なまえに謝って」 「は、なんで俺が」 「当たり前でしょ鉄くんが悪」 「なまえもクロに謝って」 「えぇ!?なんで!」 喧嘩両成敗、と口をへの字にした研磨が私たちを交互に見る。その目つきは野良猫のボスのような鋭さで、私と鉄くんは思わず恐怖でのけぞる。 「…ごめんなさい」 「…悪かった」 しぶしぶではあるけどお互いに謝った私たちに、よし、と小さく言った研磨がとりだしたのはケータイ。そして、私たちの目の前でゲームをピコピコやりだしたではないか。絶句する私と鉄くんは自然と目を合わせた。 「「プッ…!」」 「あはは、研磨らしいや」 「まったくだ」 「鉄くん、ごめんね。なんかくだらないことで怒っちゃって」 「いや、おれも邪魔しちまったあとに謝らなかったからな」 今度はほんとのほんとに仲直りした私たち。そんな中、今度は研磨がゲームに夢中だ。あーあ、ケンカしたらお腹減ったよ〜と私が暗くなった空を見上げながら言うと、よし、久しぶりに食いに行くか、と鉄くんがわる〜い顔で笑ったから、せーので研磨の腕を取る。え、ちょ、何、と慌てる研磨を引きずるようにして向かうのは、3人でよく行くファミレスだ。 title にやり |