幸せの足音 | ナノ


ぐう〜〜

「なんだよ、お前、ハラ減ってんのか?」
「……」

なまえの、タネが丸わかりの手品を見たあと、今後についてをしばらく話し合っていた俺とホルマジオの真ん中で、情けない腹の音が響く。見下ろすと、真っ赤な顔でうつむいたなまえが俺の服を掴んでいた。ホルマジオがからかうように声をかけると、さらに赤くなった顔を隠すようになまえは、俺の後ろに逃げ込んだ。ほんとに懐いてんだなぁ、なんて、面白そうに俺たちを見ていたホルマジオは、「俺も昼飯まだなんだ、しょうがねぇから、この俺が作ってやるよ」と笑った。ほんと?と俺の後ろから頭だけ出したなまえに、笑いかけ、いい子で待ってろよと言いながらキッチンへ向かっていくホルマジオ。こいつとは、長い付き合いだが、こんなにも子供の扱いが上手いなんて、まったく知らなかった。…こんな状況にならなければ一生知ることはなかっただろう。

「お昼作ってくれるって!」

嬉しそうに俺に笑いかけるなまえの頭に手を置いて、よかったなと声をかけてやる。誰かに笑顔を向けられたのは久しぶりだ。組織の奴らに、こいつを差し出された時は、ずいぶんと不安そうな顔をしていたというのに、ここ二、三時間で、だいぶ表情が子供らしくなった、と、あの場では、何も言葉を発さず、じっと何かに堪えていたなまえの様子を思い出す。


三時間ほど前、いつものように、俺は、縄張りの表ヅラを統率している幹部と会っていた。

表、というのは、実際にこの街で力を持っているのは、俺たちの方だからだ。ただ、俺たちは、力はあるが、金と権力がない。ギャングがある程度の地位を築くには、力と信頼と、金が入り用なのだ。そして今日も、金について直談判をおこなっていたところだった。


「…いい加減にしてくれ、俺たちのチーム九人は、命がけで仕事をしている、もっと評価されてもおかしくないはずだ…!」
「それはボスも分かっておる、」
「だったら…!」
「今回は、任務の他に、頼まれて欲しいことがあるのだ。」
「誤魔化すのはやめろ」
「いや、誤魔化してなどおらんよ、今回の本題はこれだと思ってくれて良い」

余裕な様子で葉巻をふかす姿が、しゃくにさわる。今までも、いく度となく、スタンドでこいつの喉元を切り裂いてやりたいと思った。しかし、今はその時期ではないと心に押しとどめてきた。イラつく俺を見て、幹部は、もったいぶったように、指を鳴らす。すると、後ろから、2人の男とそれらに連れられて幼い娘が入ってきたではないか。

「……」
「そんな怖い顔をするな、リゾット。しばらくの間、この娘を預かって欲しいのだ。」

耳を疑った。何を言っているのだ、こいつは。俺たちは暗殺チームだ。それが、こんな年端もいかない娘を預かれだと?俺はもちろん、間髪いれずに断った。すると、その返事を待ち構えていたように、「この任務が無事遂行されれば、お前たちはボスの信用も得られようというのにか?」と含みをもたせた言葉が返ってくる。

「………なぜ、その娘を預かることで信用が得られる」
「それはわたしにも分からん。お前は想像したことがないかもしれんが、わたしにも上の人間がいるのだ。」
「……」
「詳しいことは分からないが、スタンド使いであるらしいのだ。3日間ほどこちらで様子をみたが一度もスタンド能力とおぼしきことは起こらなかった。まだスタンドが発現していないということだろう。」

俺は組織に入ってしばらくしてからスタンドが発動した人間だ。そんなタイプは稀で、だいたいが、組織の入団テストで、スタンドが発現する。そこで、この娘がスタンドを発現するまで、俺に預けるのがいいのではないか、という結論に至ったのだという所まで幹部は話した。ちらりと娘を見やると、ただでさえ小さい体をさらに縮こまらせている。その表情は固い。


「…ただ預かるのは割に合わないのではないのか」
「娘の生活費を考えた分以上のものは出ると考えていい」
「…………わかった、」

改めて、娘に目をやると、娘も俺の方を見ていたのか、思い切り目をそらされた。それに関して、俺はなんとも思わなかったのだが、幹部は何か感じる所があったのか、思い切り机を叩いて威嚇する。大きい音に肩を震わせた娘を見て、満足げに鼻を鳴らした幹部は、引き受けてくれるならば、この娘を連れて出てくれ。と俺に告げた。

「娘の名は……なまえだ」


「……ット、リゾット?」
「!……どうした」
「どうしたの?お腹痛いの?」
「いや、大丈夫だ。考え事をしていただけだ。」

なまえに呼びかけられて我に返る。心配そうな目で俺を見上げる表情は、大丈夫だと伝えても変わらない。さっきジェラート食べたからかなあ、と泣きそうな顔でそんなことを言うものだから、それはない、と慌ててフォローする。続いて、「なんだよ、お前ら、ジェラートなんて食ってきたのか?」キッチンから、耳聡いホルマジオの声が聞こえてくる。

「そのことは、秘密だと言っただろう」
「そ、そうだった…ごめんなさい」

確かに俺たちは、ジェラートを食べてきた。組織から預かったはいいものの、一言も話そうとしないなまえを連れて歩いていたのだが、一瞬、店頭に置かれている色とりどりのジェラートに(もちろん、見本である)目を奪われて足を止めたのを見た俺が、ジェラートを買い与えたのだ。ミルクとチョコレート味で最後まで悩んだなまえに、仕方なく俺がチョコレートを食べるから、一口やろうと言って、やっとジェラートを買えたということも付け足しておこう。別にそれが、チームの皆に後ろ指を指されるようなことではないと分かっていたが、なんとなく知られたくなかったため、秘密、と言い含めていたのだ。とりあえず、そんなことがあってから、なまえはずいぶんと俺に砕けた態度を取るようになった気がするが、ジェラートひとつで餌付けされるなんて、このバンビーナの将来が思いやられるな、と少々見当違いなことを考える。叱ったつもりはなかったのだが、どこかしょんぼりとしているようにも見えるなまえに、ホルマジオからの声がかかる。

「メシできたぞー」
「…行くぞ」
「うん…」
「さっきの事なら怒ってないから気にするな」
「やくそくやぶってごめんなさい…」
「次からは気をつければいい、だからこの話は終わりだ。俺も腹が減った」
「……うん!」






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