「山崎さん、おかえりなさい。」
「ただいまー。」
玄関で掃き掃除をしていると、見廻りから帰ってきたらしい山崎さんと鉢合わせした。平和な町に特に変わったこともなかったのだろう、あくび混じりでかえってきた返事に思わず笑ってしまう。
「また副長さんに怒られてしまいますよ?」
「げ……」
焦った様子で周囲を見渡す山崎さんが面白くて声を出して笑ってしまった。そんな私を見て山崎さんも少し赤くなって微笑む。
「そうだ!みょうじさん。このあと暇ですか?」
「え?は、はい…この掃き掃除が終われば一応今日のお仕事は終わりです。」
「良かった。じゃあ6時半にここに来てください。」
それだけを言い残して山崎さんは去っていってしまった。私は箒を動かす手を止めてしばらく固まっていた。6時半に玄関で待ち合わせなんて…どういうことだろう。不思議に思いながらも、再び働きだした私の手足は先程よりも軽く感じられた。
◇◆
お待たせしてはいけない…そう思い早めに部屋を出ると、既に山崎さんの姿があった。私が早足で近寄ると、あれ、まだ時間じゃないですよ?と笑顔で言われる。
「山崎さんもどうしてこんなに早く?」
「男が女の人を待たせるもんじゃないでしょう?」
そう言って山崎さんは、じゃあ少し早いけど行きましょうか。と柱に預けていた背中を離した。
「どこに行くんですか?」
「…秘密。ちょっと歩きますけど大丈夫ですか?」
頷く私を見て、山崎さんはゆっくりと歩いていく。しばらく歩いていくと、この辺では一番大きな公園に近づいてきた。公園に行きたかったのだろうか、と首をひねる。
「あれ?山崎さん、なんか公園が明るい気がするんですが…」
「中に入れば分かりますよ。なんで明るいのか。」
そう言う山崎さんに続いて公園の敷地内に足を踏み入れる。明るくなっている上の方に目を向けると……
「わああ…!綺麗!」
そこにはライトアップされた夜の桜。満開の桜が時々吹く風にゆらされて、花びらも空に舞わせている。上を見上げたままの私に山崎さんは、今日の見廻り中に偶然、この公園の桜が今日からライトアップされることを聞いたのだと教えてくれた。
「すごいです!本当に綺麗…。」
「喜んでもらえたみたいで良かった。」
「はい!山崎さん、本当にありがとうございます。」
お礼を言ったあと、再び桜を見上げる。本当に綺麗で、思わず魅入ってしまう。すると山崎さんがわざとらしく咳払いをするので、私は一旦山崎さんの方に向き直る。山崎さんも私の方を向いて口を開いた。
「みょうじさん。単刀直入に言います。俺…みょうじさんのことが好きです。この桜の話を聞いたとき、一番にみょうじさんのことを考えました。みょうじさん、喜んでくれるかなって。」
「山崎さん…」
「まだまだ頼りない俺だけど…付き合って、欲しい。」
ゆっくりと、だけどしっかりと私の目をみてひとつひとつ言葉を紡いでくれた山崎さん。どきどきと心臓が動くのを感じながら、私も山崎さんのことが好きです。と伝えると嬉しそうな山崎さんの笑顔が一瞬見えて、私の体を山崎さんの体温が覆った。山崎さんの肩越しに見る桜はもっと美しかった。
フェミニンカラー
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山崎さんはフェミニストだと主張してみる。山崎の一人称が「俺」に激しく興奮します←
というかタイトルが酷い。