短いおはなし 2013 | ナノ

 んん、とくぐもった声が自然と口からこぼれる。とても高級とはいえないカーテンの隙間から朝日が差し込んでいるのを、薄くまぶたを開いたことで感じる。もう朝なのね…と、ベッドの外の現実を頭がゆっくりと認識した。わたしのことを守るように腕を回しているリゾットはまだ夢の中みたいだ。逞しい胸板に広い肩幅。男性特有の肌の硬さ。目に入るリゾットのすべてが男らしいのに、何故可愛らしく見えてしまうのかしらと、わたしは堪えきれずに小さく吹き出す。


「…起きていたのか」
「あら、ごめんなさい。起こしてしまった?」


 目をつぶったまま声を発したリゾットの前髪を指ですく。されるがままになっている彼には、可愛いらしいという表現以外が結びつかない。調子にのって頭を撫でたり、額に何度か口付けていると、いつの間にか伸びていた彼の手に腕を掴まれてしまった。


「リゾッ…んっ」


 なんの断りもなく、リゾットは強引にわたしのことを引き寄せ、キスをする。それは朝日を浴びながらするにはずいぶん濃厚なキスで、やっとリゾットがわたしを解放してくれたときには、わたしは肩で息をせざるを得ないほどになっていた。


「も、もう…」
「Buon giorno.(おはよう)」


 とても愛おしげにわたしを見つめるリゾットの視線が恥ずかしくてわたしは、彼の胸の中に慌てて逃げ込んだ。今日はお仕事はないの?小声で尋ねたわたしに、「急なのが入らなきゃ休みだな」とリゾットは気だるげに前髪を掻き上げた。最近、仕事がたて続いていたから、やっとリゾットも体を休ませることができる。疲れや痛みをほとんど口に出すことはない彼を思うと、久しぶりの休みと聞いて思わず口角が上がってしまう。


「どこか行きたいところ、あるか?」
「え?」
「最近出かけてないだろ、2人きりで。」


 お前の行きたいところなら可能な限りどこでも行ってやる、と言ったリゾットはわたしの首筋に軽いキスを落とした。リゾットは優しくてわたしにはもったいない、こんなときいつもそう考える。自分の体を休ませるっていう選択肢は彼にはないのかしら。半ば飽きれつつも、そんなリゾットのことが好きで好きでたまらなかった。


「どこにも出掛けたくない、今日は貴方の目にわたしだけを映して欲しいの。そしてわたしの目にも貴方以外を映したくない。」


 わたしの我儘を、黙って聞いてくれるのも、わたしの我儘の意味を理解してしまうのも、リゾットだけ。なまえは優しい女だ、とリゾットがぎこちなく微笑む。貴方のことが本当に好きで好きで仕方が無いってことが、その気持ちに一片の曇りもないっていうことが、全部リゾットに伝わればいいのに。だんだんと重くなってきたまぶたに逆らうことはやめた。今はまだシーツとリゾットに包まれて浅い海に浸っていよう。ね、リゾットそうしよう?


「あぁ、そうだな、一緒に眠ろう。」

「amore mio(愛しい人)」


 そっと唇に触れられた熱に、幸せを感じた。


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