短いおはなし 2013 | ナノ

 自主練をだいたいいつもと同じ時間に切り上げて、ロッカーで着替えていると、もう見慣れた俺の黒い携帯が何かを知らせるようにピコピコと点滅していることに気が付いた。シャツのボタンを閉じてから手を伸ばし携帯を開くと、画面はメールが届いていたことを示していた。メールを開いて中を見ると、


「しゅんくんはやくかえってきてください…?」


 全部ひらがなの稚拙な文面を目にして思わず口に出してしまったが、送信者は家族ではなく、隣に住む幼馴染みであるなまえからだった。理由も何も書かずに頼み事するなよな…と思いつつも受信時間はついニ、三分前だと気づいた俺は、無意識に荷物を片付るスピードを早めている。俺が呼びつけられる理由なんて、ふたを開けてみれば大したことない理由だと分かってはいるけど、ひとつ年下の幼馴染みのお願いを断ることができた試しは今の一度もない。

 日向や木吉に一言告げて体育館を一足先に出ると、冬を嫌でも感じさせる気温が全身を襲う。タオルで拭き取ってはいるが、さっきまで汗をかいていたせいでさらに寒く感じる。一ヶ月前、なんの記念日でもないというのに何故か「俊くんに似合うと思ったから」という理由でなまえから突然プレゼントされたマフラーに顔をうずめる。突然のサプライズプレゼントなんて、どっちが男前なんだか分からないな、とふと思って、頬がゆるんだ。そういえば、今年は寒いから防寒具として耳当てを追加しようかなとなまえがつぶやいていたことを思い出して、今度俺も、なまえに似合うような耳当てを見つけてやろうと心に決めた。



 一度家に帰った俺は、母さんからなまえは今日家に一人だという情報を得た。なまえの両親は結構多忙で、なまえは小さい頃からよく俺の家に遊びに来ていた。まだ小さかった俺はそのころ、なまえは隣の家に住む妹という認識でいて、それが事実だったら複雑な家庭環境だろうねと母さんに笑われた時のことをよく覚えている。

 今から行くから、とメールで一応一言送ると、すぐに「玄関開けとくね」とだけ返ってきた。数分後にはなまえの家につくというのに、玄関の鍵がかかっていない家になまえがいるのはなんとなく心配で、俺は急いで、靴をひっかけて家を出た。


「おーい、なまえ、来た…ぞ?」


 玄関を開けた途端目に飛び込んできたのは、体育座りをしているなまえだった。どうした?と声をかける前に、俺のことを認識したなまえが俺の胸に思いきり飛び付いてきた。


「う〜〜〜」
「いきなりは危ないだろ」
「…俊くんはいつも受け止めてくれるもん」
「まあ、なまえのやりそうなことはもう全て頭に入ってるから」
「じゃあなんで今日呼んだかわかる?」
「寂しかった?」
「……うん」


 素直に腕の中で頷くなまえがどうしようもなく愛おしくて、俺は柔らかな髪を、ゆっくりと撫でた。とりあえず玄関は寒いから、中に入ろう、となまえを促した。あのね、面白そうなDVDあるんだよ〜と急ににこにこしだしたなまえにつられて俺も、口角が自然に上がるのを感じた。


「あ、そうだ、なまえって何色が好きなんだっけ」
「え、なんで〜?」
「ないしょ」



title僕の精




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