短いおはなし 2013 | ナノ

 購買にお昼を買いにいこうと教室を出ると、前の授業が体育だったらしいジャージ姿の黄瀬くんが昇降口から入ってくるのが目に入った。わたしに気づいた黄瀬くんは、満面の笑みを浮かべて、駆け寄ってくる。こんなにおっきな体をしているのに彼を可愛く思えてしまうのは、こんなふうに人懐っこく寄ってきてくれるからだろう。


「みょうじせ〜んぱいっ!」
「ふふ、こんにちは。」


 お昼買いに来たんスか?と聞かれ、頷くと、また何かを言おうとする黄瀬くんに、後ろで待っていた黄瀬くんの友達だと思われる二人が「先に行ってるぞー」と声をかけた。了解っス、と片手を上げて応えた黄瀬くんのかっこよさに思わず見とれる。バスケ部のマネージャーやっているから、黄瀬くんのプレー中のかっこよさには慣れてきていたけど、こんな普通の日常の中で黄瀬くんがかっこいいところなんて見たことがなかったから、急にすごく緊張し始めてしまった。黄瀬くんはわたしのそんな変化には気づかず、質問を口にした。


「みょうじ先輩ってお弁当派かと思ってたっス」
「うん、いつもはお弁当なんだけど、今日はちょっと寝坊しちゃって…」


 正直に白状すると、黄瀬くんはみょうじ先輩でもそんなことあるんスね〜と微笑んだ。そしておもむろに、わたしの頭へと手を伸ばした。そして優しく髪をすくい上げた。いきなりの黄瀬くんの行動に呆気に取られていると、今度は意地悪っぽい表情を浮かべた黄瀬くんが『どーりでココにしっかりとした寝癖が付いてるわけっスね』と笑う。


「えっ!?うそっ」
「ホントっスよ」
「え〜〜最悪だあ…」
「大丈夫。みょうじ先輩は寝癖が付いててもすっげー可愛いっスから」
「……っ!?」


 『可愛い』という言葉に驚いて顔を上げると、少し頬を赤く染めた黄瀬くんがわたしを見下ろしていた。わたしは、勘違いしてしまいそうになって、慌てて『黄瀬くんは曲がりなりにもモデルで、モテモテで、可愛いなんて言い慣れてる』と心の中で繰り返す。落ち着いたところで、ありがとう、と返事をしようとしたときに、黄瀬くんの後ろから大きめの声がかかる。その声は、先程、黄瀬くんに先に行ってるぞと伝えていった友達の一人のもので、黄瀬くんの後ろから来た彼には、黄瀬くんの大きな体に隠れたわたしの姿が確認できなかったんだろう。黄瀬くんが一人でいると思ったのか「お〜い黄瀬!お前のだいっすきなみょうじ先輩とやらとは喋れたのかよ?」と聞いてきたのだ。


「え……っ」
「うわああああっば、バカ!みょうじ先輩まだいるって!」
「あ……わりぃ」
「悪いで済んだら警察いらないっス!」


 びっくりしたけど、真っ赤な顔で友達を怒る黄瀬くんを見てたら、なんだか面白くなってきて吹き出してしまった。黄瀬くんは「今日の部活のあと、ちゃんと俺から話させて下さいっス」と言い残して教室に帰っていった。わたしは、今日の部活にはなかなか集中出来ない気がするなあと思いつつ、お昼のサンドイッチを購入した。



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