短いおはなし 2013 | ナノ

 DIOさまは、過保護だ。私が包丁を持つと、いきなり取り上げて「こういうのは、ヴァニラ・アイスに任せておけばよいのだ」とか言うし、ほうきで掃き掃除をしていたら「汚れ仕事はヴァニラ・アイスがやる」と言ってほうきを手刀で真っ二つに叩き割っちゃうし、洗濯機を回そうと、テレンスに使い方を習っていたら「洗剤で手が荒れたらどうするというのだ、こんなものヴァニラ・アイスにやらせろ」とのたまうし、いくら私のことを大切にしているからだといっても、いい加減嫌になっちゃう。

 隣にいたテレンスはというと、「DIO様は本当になまえさんを好いてらっしゃる。まあ、確かにこんな仕事はヴァニラがやればいいんですよ、なまえさん」とのほほんとしている。ここまでくるとヴァニラって何?家政婦か何か?と問いただしたくなる。

 しかし、今日こそDIOさまにガツンと言ってやらねばなるまい。私は、緊張で動きを早める心臓に胸をあてて、一歩DIOさまに近づく。一歩近付いただけで、身長差とか、カリスマオーラとかの威圧感がやばい。怖気づいていつものように回れ右しないように、負けてなるものか、と私の目線より、ずいぶんと高い位置にあるDIOのお顔を見つめる。


「DIOさまっ」


 私だって仕事が欲しいんですっ!こう続けようとした時だった。DIOさまが急に腰を曲げて、私の顎に手をあて、盛大に唇と唇を突き合わせて下さっちゃったのでした。ぼーぜんと立ち尽くす私を見て、フン、と鼻を鳴らしたDIOさまは、どうした?おかわりか?とそれはそれは楽しそうに尋ねて下さった。


「デ、デ、DIOさまのバカァッ!オタンコナス!牛乳まみれの雑巾以下!牛に踏まれてしんで下さいッ!!」
「ウ、ウリィ!?」


 突然の出来事に、頭の中の大事な回路が壊れてしまった私は、DIOさまのスネにありったけの力を込めて蹴りをお見舞いして、その場から走って逃げた。



***



「や、やばいよねこれ…わたしもしかして殺されちゃう…?」


 DIOさまに与えられた自室のベッドに潜り込み、少しばかり冷静になった頭で、さっき起きた一連の出来事を振り返ってみて、私はこれ以上ないってくらい血の気が引いていくのを感じた。いくら自分がDIOさまのお気に入りで、ちょっとばかし好かれているからといって調子に乗りすぎだ。DIOさまに暴言を吐くどころか、手をあげてしまうなんて…実際にあげたのは足だけど!とかそんなどうでもいいことを考えている私は本当にどこかおかしくなってしまったに違いない。

 自室に入る瞬間、館のどこかが爆発するようなすごい音が聞こえたし、DIOさまはきっとカンカンだ。でも、だって、あんな、あの、みんなの憧れの、DIOさまから、き、きききキスされるなんて…!思い出しただけで、体からマグマが湧き出るみたいに熱くなって、この世の何もかもから自分の存在を遮断したくなる。そうやって私が必死に羞恥と戦っていると、部屋にとてつもなく巨大なオーラを纏った何かが近付いてくるのを感じた。…何かとは、もちろんDIOさまだ。

 ああもう死ぬんだ私、最期は、DIOさまにちゃんと血を一滴残らず飲み干してもらって死にたいな、でもそんな綺麗に死ねないよねきっと…と考えていると、入るぞと言う台詞と同時にドアが木っ端微塵に吹っ飛ぶのを見た。入るぞなんて聞こえた瞬間に、DIOさまって一応マナーとか知ってるんだ、と思った数秒前の私を殴りたい。声がけと同時にドアぶち壊すって、どこの国のマナーですか。


「…DIOさま」
「なまえ、…この私に向かって、あのようなことを言おうとはな…覚悟はできているんだろうな」
「…はい。」


 息の根は、ちゃんと一発で止めて下さいとはさすがに言えず、私は目を思い切りつぶった。一歩ずつ近寄ってくるDIOさまの足音に、緊張で身体が強張っていくのを感じた。不思議と恐怖はない。ただ、死に顔がブサイクだったらDIOさまにもっと嫌われちゃうかもって、考えてた。


「ほんとうに可愛い奴だお前は」


 おかわりが欲しいなら素直にそう言え、とDIOさまが私の耳元で囁いた後、片方のほほと唇にもう一度温かさが乗っかった。


「ッ!!だ、だからぁっ!」
「だからなんだ?」
「き、キスとかそんなのは、…その、」
「なまえは私のことが好きだろう?だったら問題はないな」


 どこまでも自信たっぷりなDIOさまに気が抜けて、私はもうこのお方には、一生敵わないのだということを痛感した。さっきは蹴ってごめんなさい、と謝る私に、DIOさまはこう言った。


「大丈夫だ、なまえよ、その分の痛みはヴァニラ・アイスに返しておいたからな」


 さっきの爆発音が頭をよぎったけど、私は、まさかね、と首を振った。でもとりあえず言わせて。ヴァニラごめん。


title 街角にて


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