短いおはなし 2013 | ナノ

 趣味やマイブームも、彼氏もいないわたしにとって、仕事がない日は、アジトでぐだぐだして、チームのみんなを見かければちょっと話し相手になってもらったり、ボードゲームに興じる、というのが、恒例になっていた。今日は朝からリーダーもいなくて、鏡に引きこもったイルーゾォと2人きり。実質、1人ぼっちだ。ホルマジオさんが今日は仕事が無いって言っていたから、久しぶりにオセロの相手をしてもらおうかな、と思っていたのに、久しぶりに彼女を甘えさせられるぜ、なんて、嬉しそうに話していたもんだから、わたしのお遊びになんて付き合ってもらうわけにはいかなかった。残るターゲットのイルーゾォは、わたしと同期入団なのに「お前と一緒にいると、ロクな事が無い」とわたしと仕事時以外の関わりを一切持とうとしてくれないのだ。多分、始めてコンビで仕事をしたとき、わたしがうっかり、イルーゾォを撃ち殺しそうになったことを根に持っているんだと思う。「はぁ、暇だなあ」面白そうな番組がTVでやっている時間ではないし、完全に手持ち無沙汰になってしまったわたしは、一人、大きなため息ついた。

 暇だ暇だと思いながら、わたしはソファにいつの間にか横たわって入眠していたようで、暇が過ぎると、とりあえず人間って眠るんだなぁ、と、まだぼやけている視界を指で目をこすることで、強引に正常に戻す。起き上がった身体から、ブランケットが滑り落ち、わたしはこんな用意周到にソファで寝に入っただろうかと首を傾げる。とりあえず、ブランケットを拾って綺麗に畳んでテーブルに置き、渇いた喉を潤すため、ペットボトルの水を冷蔵庫に取りにいくと、奥の方で、何か水音がしていることに気づく。奥には、シャワールームがあるだけだ。誰か帰って来たのかなあ、と思いながら残りわずかだった水を一気に飲み干す。


「おい、俺にも水」
「ん、イルーゾォがシャワー浴びてたのか。…ほい。」


 イルーゾォの声が後ろからして、わたしはもう一本のペットボトルを後方に弧を描くように投げる。何も言わないあたり、ちゃんとキャッチしたんだろう。冷蔵庫を物色している間に、ふと、あのブランケットはイルーゾォが掛けてくれたんだよね、と思い当たって、わたしはお礼を言おうと後ろを振り返った。


「だ、誰…?」
「は?」
「だ、だから誰だ!妙な真似してみなさい、殺しますよ?!」


 後ろを振り返ると、逆三角形の体型をしたおネェさんが立っていた。お姉さんじゃなくて、おネェさん、ってところがポイントだ。てかイルーゾォ殺されちゃったの?!相変わらず余裕な態度で水を飲んでいるおネェに、わたしは殺気を向ける。


「イルーゾォは!?」
「…お前、寝ぼけてるだろ」
「…………え、いやいやまさかね、いやいや、あんた、イルーゾォ?」


 頷くのも面倒だと言わんばかりに眉を寄せた表情は、リーダーが任務でわたしとイルーゾォのペアを指定してきたときのイルーゾォのそれだった。つまり、わたしの後ろに立っていたおネェはイルーゾォだったのだ!


「えええ!イルーゾォって美人だったんだ!!」
「うるさい」
「髪綺麗…」


 つやつやな黒い髪は、とてもきれいで、わたしは思わず目を奪われる。今はシャワーから出たところだからなのか、いつも結ばれている髪が全て解放されているのだ、…これ後ろから見たら普通に女の人じゃないか。


「イルーゾォ、髪乾かしてあげよっか?」
「断る。どうせ遊ぶつもりだろ」
「何故分かったし」
「なまえの考えてることなんか、考えなくても分かる」


 とにかくお前とはかかわりたくないんだよ、と言いながらキッチンから去って行こうとするイルーゾォの背中に慌てて、ブランケットのお礼の言葉を投げる。


「…腹出して寝てたのが目についただけだ」


 イルーゾォが、関わりたくなくても、わたしが関わりたくなってしまった、と言ったら、彼は眉間にシワを寄せた表情をみせるだろうか?ギアッチョに、リーダーには黒髪美人の彼女がいるよ!って一緒にハメてくれないかなあ。イルーゾォが悪戯好きなことを、祈りつつわたしは悪戯を考えて暇を潰すことにした。




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