短いおはなし 2013 | ナノ

「おいっし〜!やばいですこれは!」
「スポンジふわふわ〜」
「生クリームも久々に食べたからしあわせです〜!」


 パフェを前にして、一口食べるごとに感想を述べるわたしに対して、目の前の席で頬杖をつきながらバスケ雑誌に目を通していた福井先輩が呆れたように息をはいた。おまえほんと甘いもん好きだよな、と笑う先輩の前に置かれているのは湯気のたったブラックコーヒーだ。わたしが福井先輩こそ、そんな苦いのよく飲めますね。と告げると、一瞬顔をしかめた先輩は、「まあ、いつの間にか飲めるようになっちまってたんだよな」と言ってそのコーヒーを口に運んだ。

 その理由はきっとバスケにあるんだろうな、とパフェに入っていたバナナを咀嚼しながら考える。福井先輩はチームの副主将で、チームの勝利を一番に考えてプレー出来るひとだ。今年は紫原くんもチームに加入して、うちの強さはより強固なものになったのだけど、如何せん、わたしと同級生のレギュラーふたりと紫原くんはとても個性がお強くていらっしゃるため、チームをまとめるのに福井先輩は苦労してきたのだ。相手校のことをリサーチするのに夜中まで起きていることもあったようだし、チームのことを考えたり、相手校の試合記録を見るお供に、コーヒーがあって、味に慣れてしまったというのは、容易に想像できた。

 バナナを飲み込んだわたしは、もう一口、とスプーンを口に運ぶ。ふと顔を上げると、福井先輩がわたしの一連の動作をじっと眺めていたことに気がついた。理由を聞こうとして、ひとつのことに思い当たったわたしは、もう一度パフェをスプーンに乗せる。


「はい、福井先輩。あ〜ん」
「は?」
「は?じゃなくてあ〜ん」


 そんなに見てるってことは食べたかったんでしょ?と言うわたしに、福井先輩は盛大なため息をついた。どうしてそうなるんだよ…とつぶやく先輩。


「早くしないと腕が筋肉痛になっちゃいます!」
「そんなヤワじゃねーだろ、うちのマネージャー様は。」


 冗談を交わしつつ結局スプーンを口に入れた先輩は、甘ぇ…と一言だけつぶやく。食べたくてじっと見つめてたくせにもっと良い感想は言えないんですか、と返すと、さっきよりさらに大きく、長いため息をついた福井先輩は、一気にコーヒーを飲み干した。


「あのなあ、俺がお前のパフェを食べたくて見つめてたんじゃないってことを弁解するために言うとだな、…」
「なんですか?」
「お前がうまそうに食ってるときの顔が…可愛いって思ったからだ」
「かっ…!?」


 目を逸らす福井先輩の顔は少し赤いのがわかる。こんなカップルらしいこと、二人きりのときだって中々言ってくれないくせに、福井先輩はずるい。不意打ちなんてずるすぎる。


「わたしは健介さんのどんな顔もかっこいいって思ってますけどね。」


 苦し紛れに言い返した言葉と共に口に入れたパフェは、今までよりも甘く口に溶けた。



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