2012短いおはなし | ナノ

朝、目を開けば目の前に揺れる茶色の柔らかい髪があって、一瞬自分の髪に突然変異が起こったかと思った。でも、やけに重い体を起き上がらせたらそれは違っていたことを一目で理解する。俺の目の前の綺麗な髪の持ち主は、人間の女の子だった。


「え………ええええっ!?」


思わず大声を出して、ベットの上にいたことを忘れたまま後ずさると案の定、勢いよく落下。「いってて…」「んぅ…」やべ、と思った時にはもう遅くて、その子が目を覚ました。ごしごしとまだ眠そうに目をこする姿が可愛くて、きゅんとした心臓を押さえる暇もなく、俺たちは顔を見合って同時に叫んだ。



「ま、マスター!?」
「レンくん!?」





「おいしい?」
「うん!マスターって料理も上手なんだ」


正直二人とも、この状況が頭の理解可能範疇を越えていて、お互いに動き出せない状態が続いていた。が、俺のお腹が情けない音を立てたことで空気が崩れてしまって、マスターが笑いながらとりあえず朝ごはんにしようかと立ち上がってくれたのだ。俺にそうやって優しい笑顔を向けてくれる所は画面越しに会っていた時と何も変わってなくてほっとした。マスターが手早く作ってくれたタマゴサンドを二人で無言で食べながら、俺、画面から出てきちゃったんだなあ…とぼんやり考える。


「ねぇねぇ…本当に鏡音レンくんなんだよね?」


突然話しかけられて、俺は思わず噛まずにタマゴサンドを飲み込んでしまう。ごほごほとむせる俺の隣に慌ててマスターが飛んできて、水の入ったコップを差し出しながら背中を撫でてくれた。やっとのことでそれをおさめると、マスターとの距離が近くて、別の意味でむせそうになった。それを誤魔化すためにさっきの質問に小声で答える。「…俺は、鏡音レンです…。」それを聞いたマスターは目をうるうるさせ始めた。


「ど、どうしたの!?」


今度は、マスターの瞳がゆらゆらと揺らめくのを確認した俺が慌てて立ち上がる。泣かないで!と言いかけた俺にマスターが何も言わずに抱きついてきた。俺の体にぴたりとくっつくマスターの体はあったかくて、やけにやわらかくて、そしてすごく良い匂いがする。


「うれしいっ!レンくんに会えて!」


満面の笑みを浮かべたマスターの目にはキラリと涙が光っていた。これが嬉し泣きってやつなのかな、と俺は頭で考える。なに泣きにせよ、マスターが泣いているというのは俺にとって嬉しいことではない。「泣かないで」という意味を込めて親指で優しく涙をはらうと、マスターは今度、顔を真っ赤にさせた。


「レンくんって、本当にかっこいいね、」


マスターのその言葉に今度は俺が顔を赤くすることになる。


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(ボーカロイド/鏡音レン)
title僕の精




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