2012短いおはなし | ナノ

今日の試合も、秋山くんと穂波くんの息はぴったりで、相手のチームにほとんどポイントを取らせずに圧勝した。相手チームと握手を交わしたあとに不意にこちらを見上げて、穂波くんがその整った顔を緩ませながら、わたしに手を振ってきた。周りの観客の視線が痛くて、わたしが小さく控えめに手を振り返すと、秋山くんが穂波くんの腕を下ろさせたあと、ベンチに戻るよう穂波くんに言って聞かせたんだろう、穂波くんはいつものように『ルナのくせに生意気!』とか言うように眉をつり上げた。声が聞こえないのに、なんとなく状況が想像出来るのが面白くて、一人でくすくすと笑ってしまう。すると、秋山くんがわたしの方をすい、と見上げて、一瞬だけその口元に綺麗な笑みを浮かべた。そのあまり見慣れない優しい秋山くんの表情に、わたしの心臓は高鳴る。はやく、秋山くんの近くに行きたい、そう思ってわたしはカバンを掴んで階段を駆け降りた。





「遅くなって悪かった。」
「秋山くん!」


メールで決めていた待ち合わせ場所に、秋山くんは走ってやってきた。走らなくていいのに、と言うと、秋山くんは、なまえに早く会いたかったから、と事も無げに言ってみせる。秋山くんは時々、歯の浮くようなことを簡単に言ってのけるのだけど、わたしはまだそれに慣れない。というかいつまでたっても慣れそうにない。恥ずかしさを誤魔化すように、「でも試合で疲れてるでしょ?」と聞くと、「お前に会えると思ったら、疲れなんか感じなかった。」なんて、返されて、わたしは、赤くなっているであろう頬をどうすることも出来なかった。


「帰るか、」
「う、うん…。あの、さ…秋山くん」
「ん?」


どうした?とわたしに話の続きを促す秋山くんの目は、鋭いのにどこか暖かくて、私はどきどきしながら口を開く。さっきは早く秋山くんに会いたいと思った、今、秋山くんに会ったら、もっと近付きたい、触れていたいという気持ちがわたしの胸から溢れ出ている。この気持ちは秋山くんとわたしが近づくことになったあの日が終わったときからずっと大きくなっていたのだ。


「手、繋ぎたいな…」
「…!」
「……だめ?」
「だめなわけ、ないだろう……」


ゆっくり差し出された私より大きいその手をそっと握った。温かくて、そしてなにより優しい手。さっきあれだけの台詞を私に言っておいて、手を繋ぐという行為に秋山くんの顔は真っ赤になっている。それを見て思わずこぼれてしまった笑みに気付かれないように私は歩き出した。


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(暗闇の果てで君を待つ/秋山朋)
title僕の精




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