2012短いおはなし | ナノ

12月に入ってから、随分時間が過ぎるのが早いなあ、とぼんやり教室で考える。12月が始まって、クリスマス商戦の影響で町のメインストリートはきらびやかに飾られ、クリスマスが終わったと思えば、次の日にはすぐにお正月の雰囲気にシフト。これじゃあ時間の流れが早く感じるわけだ、と一人、教室で納得する。高校生の私たちは、明日から冬休みという短めの休業期間に突入する。冬休み直前の授業は、生徒だけでなく、先生もだらだらした緩いムードで進んでいき、あっという間に今年最後の授業も終わってしまった。それから、今日1日中、教室に仗助くんは現れなかった。今日会えなかったら、次会えるのは来年になっちゃうんだなあ、と思ったらなんだか少し寂しい。

「あっれ?まだ誰かいたのか〜。」

がらりと、若干力任せに開けられた扉の前には、今私が想っていた人がいた。思わず、私も椅子から立ち上がって見つめてしまう。数秒そうしたあと、「ど、どうして…」と頭の悪そうな台詞がわたしの口からは飛び出した。仗助くんは、一瞬戸惑ったような、困ったような顔をして「あ、……みょうじさんがいたん…だな」と、頭に手をやった。教室に残っていたのが、私だと気付いたときの仗助くんの表情がなんとなくだけれど、ちょっとだけ柔らかくなったような気がして、どきどきしてしまう。でもきっと勘違いだと、浮かれた自分をたしなめる。

「まだ、帰らないのか?」
「えっと、そろそろ帰ろうかな、と…」

授業が終わったのにも関わらず教室に残っていたのは、仗助くんに会えなかった名残惜しさがあったからで、他に大した理由もなかった私は、正直に、『目的が仗助くんのおかげで達成できたので帰ります』なんて言えなくて、曖昧に返事をする。

「そーか…なら、途中まで一緒に行かねえ?」
「っ!?」
「嫌なら無理にとは言わねぇけど」

彼の控えめな提案に私は、一時、呼吸を忘れてしまった。そして慌てて首を縦に振る。仗助くんは、よし、と笑った。その笑顔に私が期待するような意味はこめられているんだろうかと考えて、すぐに打ち消した。かっこよくて、すごくモテる仗助くんは女の子を誘い慣れてるんだろうって。


***


「外はさみィ〜〜ッ!」

12月に入ってからぐっと寒くなったけれど、今日は風が強くないだけ、まだましな方だ。…とは言っても寒いことには変わりないのだけれど。大きな身体を丸め込む仗助くんに続いて、私も首を肩に沈める。吐き出した息は、真っ白になって空を昇っていく。しばらく、他愛のない世間話をしたり、億泰くんとした遊びの話を聞かせてもらったりしながら歩いた。私はこっそりと隣を歩く仗助くんを盗み見る。そして盗み見て、後悔した。だってすごくかっこいい。仗助くんの話が右耳から左耳に抜けていっているような感覚に襲われつつ、私は変に思われないようにと必死で相槌を打っていた。そこで、はたと気付く。

(仗助くんの家はどこなんだろう)

校門を出たら別れるのかと思いきや、「家はどっち」と聞かれるがまま、最後の曲がり角を曲がってしまった。途中までと言っていたのにも関わらず図々しい奴だと思われてしまうかも、と背中に冷や汗が伝う。急に歩みを止めた私を、仗助くんはいぶかしげな顔で見つめる。

「私の家、ここなんだ…。」
「そうなのか。…そーか…ここか。」

黙りあう私たちは、はたから見たら変な人なんだろう。しばらくして、仗助くんがゆっくりと口を開く。「あの…よ、」何か言いにくそうにしている仗助くんを促すように見上げると、ばっちり目が合った。

本当は分かっていた。私の姿を教室で見つけた仗助くんの表情の意味も、私を一緒に帰ろうと誘って、成功した時の笑顔が仗助くんの気持ちを表していることも、仗助くんは確かにモテるけど、女の子を簡単に誘うような軽い人じゃないってことも、家まで来てしまっても私のことを図々しいなんて優しい仗助くんが思うわけないってことも。恥ずかしくて、信じられなくて、私が誤魔化していただけ。

「ら、来年もよろしくな!」
「…うん、!」
「俺、来年はもっと…みょうじさんと話してみてぇ…っつーか…」
「うん、」

「私も……、私も仗助くんのこともっと知りたい、です」

絞り出した声は、震えていて、思わず仗助くんと一緒に吹き出してしまった。年が明けて、また会えたとき、私は多分もっと仗助くんのことを恋しく思っているだろう。それと、来年も、すごく素敵な年になるんだと私は確信した。目の前にある仗助くんの笑顔がそれを裏付けている。



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