2012短いおはなし | ナノ

マスルールさんの胸はとても筋肉質だ。というかマスルールさんは胸だけに限らず、全身が一般成人男性よりかなりたくましい筋肉に包まれている。筋肉好きな私は、マスルールさんに初めて出会ったとき、夢の国の住人さんに出会ったような感動が胸に走ったことを、今でも鮮明に覚えている。

「夢の国って……なまえの考える夢の国は筋肉の国かよ…」

私の話を聞いたアリババくんは、おー怖、と言いながら自分の両手で両腕を何度かこすった。いいじゃない、筋肉の国!すばらしい!私がアリババくんの反応に頬を膨らませていると、くいっと服の裾をアラジンに引っ張られた。なあに?と言いつつ少しかがむと、これ以上ないほどキラキラした瞳でわたしを見つめつつ、こう言ってのけたのだ。

「なまえさんはマスルールさんに恋をしたんだね?」
「……………」
「………」
「「はいいいいいいいぃぃぃぃ!?」」

アリババくんと私の大きな声が綺麗に重なったのは言うまでもない。私たちの反応にきょとんと首を傾げたアラジンは、違うのかい?と私にもう一度尋ねてきた。黙って話を聞いていたモルジアナも興味津々な顔をして、私の方ににじり寄ってきている。

「なまえさん、そうだったんですか?」
「ち、違うよモルジアナ!私…別にマスルールさんのこと……好きじゃないっていうか、あの、素敵な筋肉だなあとは思ったことあるけど、恋愛対象として見てたわけじゃないよ!」
「なんだ、違うんですか、」
「う、うん」
「僕は、マスルールさんとなまえさん結構お似合いだと思うけどなあ。」
「そ…そんなことないと思うけど…」
「でもな〜んかあやしくね?やけに慌てたり、赤くなったり、お前ほんとは…へぶぅっ!!」

もうこれ以上私とマスルールさんに関連する話を聞くのが嫌で、思わずアリババくんの右頬にストレートを決めて飛び出してきてしまった。自分の頬は焼けるように熱くて、心臓が鼓動を早めている。私が、マスルールさんに、恋!?んな馬鹿な!ありえないいい…っ!と(頭の中で)叫びながらどこに向かうでもなく駆けていると、「なまえさん!」と呼び止める声が。

「あ、ジャーファルさん…とマスルールさん!?」
「こんにちは。シンが貴方のことを探していたようだったので声を掛けたのですが…何か急ぎの用があったのですか?」
「い、いえ!大丈夫です!」
「では、シンの所へ…と言ってもここに来たばかりのなまえさんにはシンの部屋よく分かりませんよね……マスルール、彼女を案内してあげてください、」

仕事がデキる男の代名詞、ジャーファルさんは、私が、シンドバッドさんのお部屋なら分かりますから!とか一人で大丈夫です!と口を挟む隙も与えず、よどみなく指示を出した。マスルールさんはそれに動じることなく、小さく頷く。シンドバッドさんの右腕として時間を共にしてきた彼らにとって普通の光景なんだろう。もうこうなったらつべこべ言わずに従うしかないと腹をくくった私も、ジャーファルさんに分かりました、と伝える。

***

マスルールさんは筋肉質で、そして何より、無口である。ジャーファルさんとお別れしてから、空気が重い…気がする。苦し紛れに「きょ、今日は、いい天気ですね!」と話しかけてみたけれど、「…あぁ、そうだな」で、終了。しかもついさっき、私がマスルールさんに恋をしたんじゃないかと指摘されたせいで、胸の異常なドキドキがおさまらないのだ。

ああもうアラジンってばなんてことを言ってくれたんだ!と内心、頭を抱えていると、いつの間にかシンドバッドさんの部屋の前に着いていたようで、立ち止まっていたマスルールさんに思いきりぶつかってしまった。

「わっ…す、すみません!」
「大丈夫だ。………お前、」

案外、どんくさいんだな。とマスルールさんが、ふっと息をはいた。もしかして、私今呆れられて…というか馬鹿にされてる?ショックで立ちすくむ私を不思議そうに見たマスルールさんは、「その辺の柱とかにぶつからないように気を付けろ」と言って、私の頭を2、3回撫でた。その手つきはとても慎重で、丁寧で、そして優しくて、私は、アラジンの指摘が的はずれなものではなかったことを理解した。心臓が、きゅんと音をたてる。


title誰そ彼



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