2012短いおはなし | ナノ


「俺、ちょっと用事思い出したんで二人で先行ってて下さいっス!」

へらりと笑った黄瀬を見送って、みょうじと歩き出す。多分告白されるんだろうな〜と興味無さそうにつぶやくみょうじに俺も同意する。いつも騒がしい黄瀬がいないと、帰り道は静かになる。そういえば、二人で帰るのは初めてだ。手が、じわりと汗ばむのを感じながら、ちらりと左下に視線をやると、みょうじの頭部が目に入る。横に並ぶと、改めて身長の違いに気付かされる。普段俺より身長のデカイ奴らに囲まれて一日の大半を過ごしているからか、自分が男の平均身長を一応は越えていて、ほとんどの女子よりは背が高いことを忘れてしまっていた。

(みょうじってこんな小さかったか…?)

みょうじはバスケ部のマネージャーを務めていて、部員全体に連絡を伝えるときや、休憩時間を知らせるために毎度大きな声を出したり、両手を高く挙げたりしているから実際より大きく感じていたのかもしれない、と得心がいく理由を思い付いて、その疑問を解決した。そこでみょうじは俺の視線に気付いたのか、俺の方を振り返りながら首をわずかに傾げた。


「どしたの?」
「あ、いや……なんでもない。」
「え〜何それ気になるなあ」


控えめに催促されても、口を開こうとしない俺を見て、少し考えるポーズをとったみょうじは、言わなきゃ明日のドリンク、キャプテンのだけ激辛にするよ?と脅して吐かせる作戦に変更してきた。性格悪いなお前……と俺がぼやくと、みょうじはまぁね〜と言いながら楽しそうに笑った。その笑顔に不意を突かれつつ、「みょうじってこんなにちいさかったか?って思っただけだ」とやや早口で答える。


「え?あ!私が小さいこと馬鹿にしてるんだ!」
「は!?ち、違っ」
「キャプテンってば、ひっどおい!」


わざとらしく口を尖らせ、普段使わないような口調で怒るみょうじは、俺の前に立ち塞がる。腰に手を当てて、頬を膨らませたみょうじ。大袈裟な演技をしていると分かっていても、正直に言って、可愛い…と思ってしまう。ついさっき、自分よりふた回り以上も小さいということを認識した俺は、今みょうじが何をしても、許してしまえる気がする。


「私だって背伸びすれば…っきゃ!」
「おっおい…!」


何に張り合おうとしたのか、つま先立ちをしたみょうじが、ぐらりと前に傾く。別に反射神経ウンタラ…ということではなく、真正面に位置していた俺は当然みょうじを受け止める形になった。大丈夫かと、声をかけようとして、下を向いた俺は一瞬息が止まりそうになる。ごめんと言いかけて上を向いたみょうじの顔がぼやけて見えるくらいに距離が近かったからだ。それに加えて、みょうじの手のひらは俺の胸に、俺の両手はみょうじの肩を掴んでいる。はたから見れば、抱き合うカップルに見えることだろう。


「っ……!!」


何も発することが出来ずに、俺はみょうじを見つめる。真っ赤になったみょうじも、俺を見上げたまま固まっている。頭の真ん中がじんじんと熱を上げてぼやけていくような感覚が俺を襲う。みょうじが、ゆっくりと目を閉じて、俺は、顔を右に傾けて、そして……、


「あ!みょうじ先輩と笠松センパイじゃないっスかあ!追い付いたっス!」


互いに弾かれるように距離を取った俺たちは、もう一度も視線を交わらせることはなかった。いきなり現れた黄瀬に、適当に相槌をうちつつ、さっきのは夢だったのか、とも考えたが、みょうじの頬の色にどうしようもなく胸がざわついた。


title無垢


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