2012短いおはなし | ナノ

みょうじさんが、俺の天使なんだと思う。みんなにそう打ち明けると、隣にいた笠松が、生まれて初めてパイナップルが入った酢豚を見た奴がするような顔をした。ちなみに、真正面にいた黄瀬は、生まれて初めて生ハムメロンを見た奴がするような顔をしていた。「森山……冗談は試合前に女の子を探す癖だけにしてくれ。」いや、俺は至って真面目なんだけど。さっきのみょうじさんは俺の天使宣言も、その癖も。


「俺が言っちゃなんですけど……あのこ俺のファンっスよね…?」
「俺のファンにすればいい話だ。」


黄瀬の発言に、胸を張って言い返すと、部員たちは皆、揃って大きめのため息をついた。そのあとで、あの熱の入れようを見て尚、みょうじさんに惚れられるお前がすげぇよ…と笠松はつぶやく。


もうお分かりかもしれないが、何を隠そう、みょうじさんは今は、バスケ部の後輩である黄瀬の大ファンなのだ。『今は』ってなんスか!と黄瀬が後ろで五月蝿いが、先輩という権力を行使し、スルーさせてもらおう。縦社会万々歳。さて、みょうじさんは一年生で黄瀬と同じ学年で、入学初日に道で派手にスッ転んだみょうじさんを助けた黄瀬に一目惚れしたらしい。(みょうじさん本人談)彼女の黄瀬への入れ込み方は、なかなかに目を見張るものがあり、バスケ以外には無頓着で、女の子なんか持っての他の笠松ですら、『みょうじさん=黄瀬の熱烈なファン』と認識できている程だ。
そんなみょうじさんに何故俺が心を奪われたかというと、ある程度顔見知りになってきて、休憩中に軽い雑談程度をみょうじさんとするような関係を築いていた頃、休憩中に放った黄瀬の軽い3Pを見たみょうじさんが、興奮して、隣にいた俺の胸をわあああとタッチしたからである。つまりボディタッチで俺のハートもタッチされたわけである。


「なんも上手くねぇよ!ドヤ顔やめろ馬鹿!」
「というか、そんなんで惚れたんスか!?」
「男なんてみんなこんなもんだろ!」


というか、転んだみょうじさんを助けたのが俺であったならみょうじさんは十中十十、俺に惚れていたんだから、恋に落ちるのは、男も女もそんなもんだ。俺がそういい放つと、笠松は唸った。丸め込まれたみたいでムカつくけど一理ある気もする…と悔しげに腕を組む俺らのキャプテン。そんな笠松を横に、十中八九の間違いっしょ!?つーかそれなんて読むんスか!と騒ぐ黄瀬…は、もちろんスルー。


「あ〜〜!下らねぇ話はここまでだ!練習すっぞ!」


ロッカールームの全員が、制服から練習着に着替えたことを素早く目で確認した笠松は号令をかける。月に一度、チームの結束を深めるため、一斉にコート入りする日がくると、笠松はやはりキャプテンだなあと再確認する。笠松を先頭に、体育館への扉を開けると…やはり、いた。

「キャー!黄瀬くうううん!」
「かっこいいいい〜!」

黄色い声援を惜しみなく飛ばす女の子たちの隅で、一際輝く俺の天使。頬を染めるみょうじさんの目線の先は、まだ黄瀬にある。…うん、やっぱ悔しいわ。みょうじさんの視線を遮るように立ち塞がると、やっとみょうじさんは俺の方を見る。


「みょうじさん、絶対俺に惚れさせるから、覚悟しておいてほしい」


それを聞いた女の子たちはザワザワと騒ぎ始め、注目を浴びたみょうじさんは頬を一段と赤く染めた。俺の時代が来る日は近いに違いない。


「いや、今のは単に注目されて恥ずかしかったんじゃないか……?」
「森山先輩ってマジで残念なイケメンっスね……」


title僕の精


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