2012短いおはなし | ナノ

あーとか、うーとか、時々人間の口が発しているとは思えない声が火神くんから聞こえてきてわたしは思わず小さく笑ってしまう。隣で黙々と社会の暗記をしていた黒子くんはそれに気付いて、つい、と顔を上げた。今、私たちはテスト前の勉強会を誰もいない教室で開いている。


「どうしたんですか?」
「火神くんって本当勉強苦手なんだなぁって。」


わたしが彼の名前を出すと、黒子くんは合点がいったのか、ああ…と言いながら視線をわたしから火神くんの方へ移動させた。あれでもかなり真剣にやってるみたいですね、と言う黒子くんの言う通り、今まさに話題の中心にいる火神くんは私たちに目をくれることなく、ノートと教科書をひたすら往復している。握ったシャーペンはさっきからひとつも文字を産み出してはいないけれど。


「火神くんが真剣に頑張ってるのって素敵だよね、」
「……………突然何を言い出すんですか。」


言い出したわたしもびっくりしてしまったけど、黒子くんはもっとびっくりしていた。自分で口にしておきながら、恥ずかしくなってきて顔に熱がどんどん集まっていく。なにか言わなきゃ、と思いながらあたふたしていると、「僕も一応真剣にやってるんですけどね」という台詞が飛んできた。ぽかんと黒子くんの方に目をやると、黒子くんの視線は既に社会の暗記用小冊子に向かっていた。


(ど、どどどういうことですかこれ…!?)

結局、集中モードに入ってしまった(ように見える)黒子くんに話を聞くことも、さっきの火神くんの件は別に深い意味はないのだと弁解することも出来ずに今日の勉強会は終わってしまった。火神くんを誉めたことは純粋な気持ちであって、別に深い意味はないというのを別に黒子くんに話す理由なんか無いはずなのに、何故か誤解されてしまっているかもしれないと焦って考えてしまう自分が不思議だった。





「…これが、わたしが黒子くんのこと気になり始めたきっかけ、です!」
「……僕はこの日よりずっと前からアタックしてたんですけどね。」
「えっ、……と…。」
「困った顔しないでください。今、僕のことを好きでいてくれてるなら、それでいいんです。」
「黒子くん…(キュン)」
「おい…ノロケなら他所でやれよ」
「火神くん、嫉妬ですか?醜いですね。」
「おまえあの勉強会の日からなんか俺にキツくない!?」



title無垢


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