2012短いおはなし | ナノ

ギャンギャンギャン!……人間どもの耳だったらこう聴こえるであろう声が、俺がいつものように自由気ままに昼の路地裏散歩を楽しんでいる最中、響き渡った。っせえな…。路地は反響してうるせえんだから、ちいっと考えて吠えろよ…。とイラつきながら歩いていく。行き先なんて面倒なもん決めてたワケじゃないが、声がしたから回れ右なんてそんなこと俺がするわけがない。むしろ、大声だしたバカをザ・フールで痛め付けることが俺の今日の散歩の目的な気すらしてきたくらいだ。
『ギャンギャンギャン』の内容はおまえら低脳な人間にはわからんだろうから教えてやる、…こうだ。


「ほお〜いい物もってんじゃん!寄越しな!」
「嫌!」
「俺たちも手荒な真似なんてしたくないんだぜ?」
「さっさとよこせバーカ!」


つまりまあ、低脳な奴らのやりそうなことだ。別に困ったやつを助けるとかそんな偽善者ぶった理由なんかこれっぽっちも浮かばなかったが『いいもの』を本当にいいものか自分の目で確かめてみてもいい、と思った俺は声が聞こえてきた道へ向かうべく左へ曲がった。



「やめて!離してよ!」
「うるせーよ!」
「だまれブス!ボスに大人しく抱かれろ!」
「意味わかんない!早くその葉書を返して!」


路地裏の一角で騒ぎを起こしていたのは、汚ならしい男三人組と、ここらではみかけない飼い犬であろう女だった。ちっ…男三人組でとっかかるとは胸くそワリーぜ。俺らしくないとは思いながらも、ザ・フールで奴らを蹴散らしてやった。生まれて初めて見たであろう砂の犬の大群に尻尾を巻いて逃げ出す姿を横目で見送る。根性が腐った奴らだと思っていたが、それは俺の勘違いだったらしい。根性なんてもん持ち合わせていなかったようだ。


「あ…あり、がと…」
「………」


女を無視して歩き出そうとしたところで足元でかさり、とした音に気づく。音の正体の紙っきれを拾い上げると、女は小さく息を飲んだ。一面に青と白と水色が描かれたそれは、どこか異国の港の風景であろうか。


「ま、まさか、あなたもそれが目当てで…」
「んなわけあるか。俺はこんな紙っきれなんか興味ない。」


そう言って差し出すと、女は一瞬にしてぱっと表情を明るいものに変えた。さっき奴らが言っていた『いいもの』とは、すなわち、この女自身だったんだなと気付く。近くで見てみればなるほど、かなりの美人であった。


「あの、本当にありがとう。なんてお礼をいったらいいか…私には今、貴方にあげられるようなものなんて持ってないし…」
「別にいらねえよ。助けるつもりとかなかったからな。偶然だ偶然。」
「………貴方ってとっても勇敢なのね。」
「…………」
「お名前を教えて下さる?いつになるかわからないけれどお礼をしたいわ、」
「名乗るほどの者じゃねぇよ。」


言った!決まった!承太郎たちと乗り込む車で聞かされたラジオドラマとかいうヤツの決め台詞。黙って歩き出した俺を女が後ろから見つめているのを気配で感じた。俺は今最高にキマっている自信があるぜ。



∴title 街角にて

つづくかも…!


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -