2012短いおはなし | ナノ

承太郎さんに惚れてしまった。

至極簡単に今のわたしの気持ちを表すならこの一文以外ありえないだろう。わたしのクラスに東方仗助という見た目がつっぱっているわりに話してみると意外と面白くていい意味で普通の男子高校生がいるのだけれど、ある日、彼を駅前で偶然見かけた際に出会ってしまったのだ。わたしの運命のひと、空条承太郎さんに。

承太郎さんはホテルに宿泊していて、わたしたち学生が朝通学するような時間にはあまり外を出歩いていない。しかし最近は『この町で調べなければならないこと』がたくさん出てきたようで、最高に運が良い日は通学中に、白いイカすコートをなびかせて静かに歩くわたしの王子様に会えるのだ。そして今日英語の授業で当てられることが確実に分かっていたせいで、すごくブルーな気分だったわたしは、視界に白いコートが飛び込んできた瞬間に、今日という日はなんて素晴らしい日なんだろう!と思えてしまったのだ。


「あっ、お、お、おはようございます!承太郎さん!」

「ん…ああ、確か…」

仗助のクラスメートだった…、と言われたところでぶんぶんと首を縦に振り、「みょうじなまえです!」と何度目かわからない自己紹介をする。わたしの名前なんか覚えてもらっているはずないからいいのだけれど、まさか仗助くんのクラスメートっていう肩書きを覚えていただけているなんて…!!嬉しい!幸せ!死んでもいい!いや、承太郎さんにみつめられるまでは死ねないわよわたし!!


「おら、ぶつかるぞ。」
「きゃっ…!」


承太郎さんのことで頭も心もいっぱいになっていたから、前から走ってくる車に気がつかなかったようで、すんでの所で承太郎さんがわたしの腕を取って引き寄せてくれた。瞬間、ふわりと舞う承太郎さんの匂い。承太郎さんに触れられた腕から、火事が起きたみたいに熱が上がっていく。ああだめ、こんなの幸せすぎて死んでしまう。


「朝からぼうっとしてやるなよ。じゃあな、」


その台詞と共にわたしの腕からは承太郎さんの大きくてたくましくて男らしい手が離れていった。ほんの一瞬の出来事だったのに、なんだか人生の残り全部の運を使いきってしまった気がする。

……それでもまあいっか。



∴title 僕の精


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