2012短いおはなし | ナノ

滝沢くん、俺のことをそう呼ぶ彼女の声がすごく……可愛い、と思う。他の女の子に呼び掛けられたってこんなふうにドキドキしたり緊張してどもったりしない。あの子だから特別で、やっぱり俺は彼女のことが好きなんだと確信する。

あの子は可愛いだけじゃない、優しくて、笑顔が花みたいに綺麗で、真面目だけどおちゃめな所もあって、完璧に俺の胸のど真ん中を突いてくるような女の子だ。それに対して、目付きが悪くて、彼女を前にすると、異常に上がってしまってかっこいいところなんてひとつも見せることが出来なくて、霊とか妖怪とか見えるっていう変な体質を持つ俺。正直言って、俺を受け入れてくれるとも、釣り合うとも、まったく思えなかった。

でも二年生で同じクラスになって、俺と彼女の距離は急激に近付いた。俺の幼少期の写真を見せてから、彼女はよく俺に話しかけてくれるようになったのだ。嬉しい気持ちはもちろんあったけど、毎日が緊張の連続。「わたし、滝沢くんって怖い人だと思ってた。」と言われたときは正直かなり凹んだ。シロの奴も後ろで笑ってるし。でもそのあとにすげぇ可愛い顔で「でも滝沢くんって本当はすごく優しくていい人だよね。」と言ってくれた瞬間のことを俺は一生忘れない。というか、忘れられないだろう。


***



「滝沢くん、化学得意だったりする?」


授業が終わって、部活に所属していない俺は帰り支度をしていると、おずおずとあの子が話しかけてきた。


「え、あ、あ…に、苦手ってわけじゃあ…ない、けど…。」
「もし良かったらこの問題教えてくれないかな?」


差し出されたのは今日の授業で課せられたワークの問題だった。化学が結構得意な俺は、授業中にその問題を解いてしまったのだが、それはそれなりに複雑な問題だった。彼女に頼られたことに気持ちが高ぶりながらも俺は頷く。すると、ぱぁっという効果音が聞こえるほど表情を明るくした彼女が俺の隣に椅子を持ってきて、普通に座った。問題の解き方を教えるのだから、隣り合わなければ始まらないのは分かっている。分かっているのだが、彼女の柔らかそうな髪や、ワイシャツの隙間から覗く首元、小さくて細い指に、桜色の唇。それらの全てが俺を……いやらしい意味じゃなく、変な気分にさせる。まるで彼女が俺のもののような錯覚さえ覚えてしまう。


「あっ…と…こ、これは問題3の解き方を参考にした解き方なんだけど…」
「うんうん、」


真剣に俺の解説を聞いてくれている彼女には口が裂けても言えないけど、彼女の真面目な横顔は綺麗とか可愛いとかじゃ表せないくらい俺を引き付けていた。しかし今は、滝沢くんの説明は解りづらい、なんて思われないようにとにかく問題を解くことに集中しよう、と使いなれたシャーペンを握りしめた。隣からは彼女の甘いにおいがしている。



(同級生は魔神サマ/滝沢鉄)
title 誰そ彼




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