2012短いおはなし | ナノ

「俺はもう優しい男でいることに疲れた…」


なんだか最近、うちのキャプテンであり、良識、常識、礼儀…すべてをまんべんなく兼ね備えたなんだかんだできる人代表、喜多の元気がないように見えたから、一声かけてみればこんな返事が返ってきた。優しい男でいることに疲れた…?言いたいことの主旨が解らなくて首を捻ると、喜多が今までずっと溜め込んできたものを爆発させるかのごとくしゃべりだした。


「俺だって男なんだから、みょうじさんに触れたいし、抱き締めたいし、キスしたいし、短いスカートなんか穿かれたらやばいし、ましてやその格好でベットに座られたら押し倒したくなるし、家まで送っていって最後にすごい可愛い顔で笑って『ありがと、大好き』なんて言われて背伸びされながら頬にキスされたら爆発したくなるって!!!!!!」


ばーん!と部室の机を叩いてなぜか勢いよく立ち上がった喜多に呆気に取られて、俺はただいつもと全然違う喜多を見つめることしか出来なかった。ただ、今の、長く切実な訴えの中に喜多の彼女であるみょうじの声真似があったかと思うが、酷く似ていなかったので悪寒がしたことだけは、はっきりと言っておこう。それにしてもその状況は生殺しだなあ、俺だったらミニスカートで彼氏の家に上がる時点でそういう意味に捉えるし、行動に移すけど、喜多の場合はそうもいかないんだろう。真面目で、男らしくて優しい人物だと認知されているだろう喜多には。


「だから優しい男でいることに疲れちゃったってわけか、」


俺が理解したことに安心したのか、喜多はパイプ椅子に座り、今度はぐたりと体を机に預けた。でもなぁ、と俺はみょうじに考えを寄せる。みょうじも一筋縄ではいかなそうな女だし、難しい問題だな、と思う。みょうじは、なんとなく掴み所がない女で、モテるわりにふわりふわりとその誘いをすりぬけている。それだけ聞くと男慣れしてる女といった感じもするが、恋愛話に疎かったり、喜多と一緒にいるときはいつもいじらしい態度であったりするのだ。計算高い女狐に俺達のキャプテンが取って喰われたんじゃないかと、西野空が冗談で辺りを嗅ぎ回ったらしいが、西野空の女友達いわくそんな子ではないらしい。西野空は俺に結果を報告しながら、「ま、中学生らしい健全なお付き合いができるんじゃない?」と笑っていたが、流石に…


「健全すぎるだろ…」


せめて手くらい握れば?何かしらの突破口になるんじゃないかと思い、そう提案すれば、喜多はみるみるうちに真っ赤になった。なにこれなんか俺が喜多を口説いてるみたいで気持ち悪いんだけど。つーか喜多が奥手過ぎるだけなんじゃ…。


「…まあ、頑張ってみる。」
「おー。あ、そろそろみょうじの委員会も終わる頃だろ、行ってこい。」
「ああ、いってくる。」


部室の戸締まりはしっかりしてくれ、と俺に釘を指すことは忘れないしっかり者のキャプテンを見送ったあと、俺は携帯を取り出す。『喜多を尾行する お前も来いよ』メールの宛先はもちろん西野空だ。





「やっほー!何々!?なんで喜多を尾行?」

メールの返信が届くより早く俺の目の前に現れた西野空に事情をかいつまんで説明すると、腕組みをしてしばらく唸った西野空が「つまり、あれだ……暇なんだよね僕達。」と笑う。事情は全て理解してもらえたようでなによりだ。

さてさて、現場はどんな様子でしょうかと言う西野空につられて目を向けた先には、走ってきたのか息を切らしたみょうじの背中をぎこちなく擦ってやる喜多の姿があった。ようやっと息を整えたみょうじと喜多は顔を見合わせて、お互いに笑いあっている。なんとなくだけど、この二人を尾行したあと、男二人に残るものは虚しさだけな予感がした。

そしてあと30分後くらいに、その予感はばっちり当たることになるのだった。




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