2012短いおはなし | ナノ

「あのねあのね霧野くん!」


クラスメイトでそれなりに仲の良いみょうじが、興奮しながら満面の笑みで俺に話しかけて来るときは、10割あいつの話だ。これは間違いない。その時偶然隣にいた神童は、普段のんびり屋でマイペースなみょうじの見たことない勢いに驚いたのか、目を丸くさせていた。


「さっき剣城くんとすれ違って会釈されちゃった〜っ!!」


きゃいきゃいと騒ぐみょうじに、ああそう、良かったな。と返しておく。みょうじは別に俺の反応を見たいわけじゃなく、ただ単純に剣城のことを話したいだけだからだ。俺のみょうじへの冷たい反応を見て微妙な顔つきになっていた神童にもそう説明すると、「なんで剣城のことをみょうじさんが話したがるんだ?」と言い出した。いやいや、そこは察しろよ。神童は恋とか女の子に関して無知過ぎる。南沢先輩ほどじゃなくていいから、少しはそっち方面も勉強した方がいいんじゃないか、と心配になった。


「みょうじは剣城のことが好きなんだよ」
「きゃあ霧野くん!そんなはっきり言わなくても…っ!」
「えっ…つ、剣城を……」


これ以上簡潔にできないっていうくらいシンプルに事実を伝えると、みょうじは顔を真っ赤にして大げさな動きをしながら両手で顔を隠す。それを見て嘘ではないと感じ取ったのか、神童は信じられない…といった顔をした。まあ確かに俺も初めてそれを知ったときは、まったく信じられなかったから気持ちはよく分かる。

なんと言っても愛想のない剣城だ。可愛げがなく、とげとげしてる剣城。口数も少ないし、とにかくとっつきにくいオーラを全力でまとっている剣城をみょうじは好きだというのだ。正直、はじめは何かの間違いじゃないかと思っていた。でも、みょうじが可愛いと言う、くるくるのもみあげと、みょうじがかっこいいと言う、規定されたものではない制服を着衣しているという人物がどう考えても剣城しか見当たらない。


「会釈…って、みょうじさんと剣城は知り合いなのか?」
「剣城くんとわたしはねぇ、メル友なんだよ。」


思いきり胸をはるみょうじに、神童は驚きすぎて、二三歩後ろによろめいた。そして実は、俺がみょうじに剣城のアドレスを教えた張本人だ。あのときのみょうじの必死さと、それを伝えた時の剣城の微妙な顔をよく覚えている。





「霧野くんっ!霧野くんってサッカー部だったよね!?つ、つ剣城くんってあの、一年生のかっこいい剣城くん!」
「…剣城は分かったから少し落ち着いてくれ。」
「あ、あのね!剣城くんのアドレスをわたしに教えてください!」


「って訳なんだが…、頼まれてくれないか剣城。」
「………なんで俺が……」


あからさまに嫌そうな表情を浮かべながら剣城はタオルで汗をぬぐう。しかし、みょうじのあの勢いと熱意を見る限り、剣城のアドレスを手にいれるまでは俺に永遠に付きまとってきそうだったから、俺も簡単には引き下がれなかった。悪いやつじゃないし、めんどうだったら、『サッカーやってました。』とか『寝ます。』って返せばあっちもいつか諦めるだろうし、となんとか説得して了承を得たわけだ。




「ていうか、上手くいってるのかメールのやり取りは。」


剣城がみょうじとメールのやり取りを続けているかなんて考えたことがなかった。しぶしぶ頷かせた剣城にみょうじのアドレスを教えた時から俺の中で、この件に関する俺の仕事は終わったことになっていたからだ。だからましてや、みょうじの口から自信満々に『メル友だ!』なんて出てくるような間柄になっていたなんて思いもよらなかった。


「うん!剣城くんってね、よくチューリップの絵文字使うよ!」
「……ま、まじで…」


みょうじの恋を見守っていれば色々な剣城が見れそうだな、神童にそう言えば、「……あ、ああ」とみょうじから伝えられた意外すぎる剣城の情報に、軽く放心状態だった。俺は今日の練習中にあいつを見て吹き出さないかが心配だ。



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