2012短いおはなし | ナノ

「喜多はさあ、女の子のブラ何色派?」


普段は緩いくせに、掃除にはやけに厳しい担任に見張られながらやっとのことで教室掃除を終わらせて部室に行くと、待ち構えていた西野空にそんな質問を投げ掛けられた。理解できなくて、数秒固まる俺を他所に、西野空の後ろで隼総と星降が何やらそれなりのボリュームの声量で話し合っている。「やっぱ紫だろ、紫。エロいし。」「お前、紫好きだねー。俺は断然薄ピンクだな。女の子の柔肌を一番綺麗に見せる色だし。」や、柔肌…!?


「お前らな…!部活するぞ部活!」


正直こういう話はものすごく苦手で、修学旅行の夜にだってあまり話したくないような話題なのに、こんなに明るくてお互いの顔が見えるような場所でしかもこんな時間帯に話せるわけがない。もっともなことを言ってグラウンドにけしかければ、すぐに解散するだろうと高をくくっていた。でもその考えは甘かったようだ。


「まだ全員揃ってないんだしい、いいじゃん。」


西野空の言葉に部室を見渡せば、確かにマネージャーであるみょうじの姿がない。いや、さっきのような話題を女子のみょうじがいる場所でしているわけがないのだが。『マネージャーと選手、全員集まって俺らはチームだろ』なんてキマった台詞を隼総に吐かれては、俺は言い返せなかったのだった。


「んで、キャプテンは実際の所どうなのよ?」
「………」
「星降〜喜多はまだ考えちゅうだって、」


星降がニヤニヤしながら、俺の肩に手を置いたが、答える気のない俺を見て西野空が助け船を出してくれた。なんだお前、意外といいやつだったのか…と思った途端に、「むっつりえっちいキャプテンは、候補が多すぎて一つに絞れないんだよ〜」これだ。この部室に一人として味方はいないのだということを心に刻んだ。なるほどねぇ、と納得している星降はあとで練習のときにボールを回しまくってしっかりイジめさせてもらう。持久力の無さが弱点な星降には、いい特訓になるだろう。


「ちなみに僕は黄色でぇ、Cカップがいいなあ」
「ぶっ……お、おま…カップ…って…」


西野空の発言に慌てふためいていると、黙っていた安藤さんと隼総が、俺も。と手を挙げた。…手を挙げる意味が分からない。もうなんなんだよこの部員…なんでこんな部活のキャプテンやってるんだ俺は…、と自分の存在理由すら崩れそうになっていると、星降が、爆弾を落とした。



「俺は小さめのBがいいけどね。みょうじぐらいの。育てがいあるし?」



ついにサッカー部にただ一人の女子、みょうじのことを話題に出したのだ、この男は。「マネージャーは意外と着やせするタイプだと思うな。」と隼総はにやりと笑う。「そうそう!それに、意外とセクシー路線だったりねぇ!」せ、セクシー!?西野空の言葉に一瞬だけみょうじの有らぬ姿が頭に浮かんだのは許してほしい。ていうかこいつらどこまで話を進める気だ…!そろそろ止めさせなければ、と思いわざとらしく咳払いをひとつすれば、隼総が口笛を小さく鳴らした。


「キャプテ〜ン?お顔が真っ赤だぜ?」
「あれれれれ?もしかしてみょうじの下着姿想像しちゃったのかなあ?」
「喜多、やっぱりさっきのむっつり説は本当だったんだな。」
「大方、セクシー路線なみょうじなんて考えたことなかったんだろ、むっつりな奴はだいたい白を夢見てるから。」


安藤さんの言葉に残りの三人は「おおお」と感嘆をもらす。俺がそれに反論しようと口を開いたときに、事態は一変した。ものすごい勢いで開いた部室のドアの前には仁王立ちするみょうじの姿があったのだ。無論、固まる俺達。みょうじは軽くうつむいていて表情が伺えなかったが、今みょうじがどんな感情に包まれているか、なんていうのは一目瞭然だった。


「みんな…部活もやらずに………何を、話していたの?」
「いや…」
「お、おい怒るなよ、」


いいよどむ隼総と、みょうじをなだめる星降に対して「…ぜんぜん怒ってないよぉ〜ぜんっぜん!」と、みょうじは今まで見たことがないくらい良い笑顔を浮かべてそう言った。そのオーラに耐えかねてみんな肩を震わせてうつむく。うわ、みょうじって…怒るとこんなに怖いのか…。


「喜多くん、いこっ!今日からわたし、サッカー部のマネージャーじゃなくて、喜多くんのマネージャーだから!」


しかし、みょうじにこう言ってもらえて、やっぱりあんな話題に口を出さなくて良かった、と心から思う俺だった。




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