2012短いおはなし | ナノ

※気分を害するかもしれません


「あははっ!無様だねぇ!」
「て、てめぇ・・・」


たまたま通りかかった小さなグラウンドで、高校生を相手にしてるアイツがいた。見るからに体がでかく、力のありそうな男の団体が一人の、しかも小柄な中学生の女にズタボロにされているという図は、一見不思議なものだろう。しかし、相手がなまえなら話は別だ。なまえは女ながら化身使いであり、シードとしてフィフスセクターに従いながらも指示された以上のことをやってのける奴だった。


「またやってんのかお前。」
「あ〜剣城くんだぁ、久しぶりぃ!」


機嫌がいい時のなまえは話すときに語尾が伸びる。どうやら今はこの高校生たちを潰せて気分がいいらしい。正直俺は腹の中が煮えたぎって死にそうなくらいだけどな。俺の顔を覗き込んだなまえは高らかに笑う。その声は俺の脳みそに直接響いてくるようで、胸糞が悪い。知らず知らずのうちに拳を握りしめていたらしい。そんなに強く握ったら血が止まるよぅ?となまえが笑った。


「お前さ...いい加減にしろよ、」
「何がぁ?」
「とぼけるな!」


俺が怒鳴ると、なまえは一瞬びくりとした後、足元に転がる男の腹を思い切り蹴りとばした。その男は低い呻き声を上げたあと、ぴくりとも動かなくなった。


「なまえ...!!」
「あはは!心配いらないよ!気絶しちゃっただけだと思うから!なっさけないよねぇ、サッカーを玉ころがしかなんかだとおもってるんじゃないのこの人たち。」


でもま、もう運動なんかできる体じゃないと思うけどね!と満面の笑みを浮かべて軽やかにボールをリフティングし始めたなまえに俺は詰め寄り、襟元をつかんだ。いくら強い名前と言っても男女の根本的な力の差はある。この高校生たちも、なまえの拳ではなく、なまえの足が操るボールに何もかもやられたのだろう。動けなくなったあとにお世辞にも優しいとは言えないなまえに何をされたのかは想像に難くないが。


「離してくれない?」
「いい加減こんなことはやめろ。」
「やめてくれの間違いじゃないの、」


俺に顔を近づけたなまえの形のいい唇が弧を描く。縮まった距離の分だけなまえの女のにおいが俺の鼻腔をくすぐる。昔から変わらないなまえのにおいに、変わったなまえの表情。初めて会ったときはサッカーが大好きな、人一倍サッカーに努力していた奴だった。聞いた話によると年齢を重ねるにつれて男に力の差を見せつけられ、自分が女なことに絶望していたときに化身が出せるようになったという。


「わたし男って大っ嫌い。...殺したくなるくらいにねぇ。」


ぺろりと舌なめずりをしたなまえはだけど...と言葉を続けた。


「剣城くんのことはだぁいすきだよぉ」
「っふざけるなよ」
「むかつくなら殴れば?あ、なんならお得意のデスソードでも出しとく?」


しばらく睨み合っていたが、俺の手の力が緩んだ瞬間になまえが思い切り手を振り払った。そして一瞬の隙を突かれて、俺はなまえに、キスされた。あっけにとられる俺に向かってニィっと笑って、なまえは高らかに叫んでみせる。笑っているはずなのに、俺にはなぜか今のなまえの顔は泣いているようにも見えた。


「無理だよねぇ!!無理だよぉ!わたしを傷つけるなんて〜だってさ、剣城くんもわたしのこと」

「だぁあいすきだもんねぇ!」


そうだ、俺はずっとなまえが好きだった。こうなる前から、そしてこんななまえになっても、こいつのことが好きだ。殴ることも、ましてやデスソードを喰らわせるなんて俺にはできるはずがない。さっき済ませたばかりの初恋のキスの味は、もう忘れた。

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title僕の精



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