俺は今、怒りやら、イラつきやらを通り越して、虚脱感でいっぱいになっていた。何かにイラつくっつーのは、体力と気持ちに余裕があったときに初めて満足に出来るモンなんだなと、未だにぼんやりしている頭で考える。バックミラー越しに写るのは、アジトと仲間の顔ほどじゃあないが、見慣れたマンション。そこには、俺の愛した女が住んでいる。暗殺稼業の俺も、女には、1人の男として、愛情を注いできたつもりだ。確かに、会えない日は多く、職業も、婚姻していないから教えることは出来なかった。聞かれても答えられないことは数多くあったが、それは、掟とか規則とかそんなもんを守ろうと思っての行動ではなくて、あいつを護りたかったから、ただそれだけだった。いつかホルマジオが言っていた「女って何でも知らなきゃ気が済まないんだよな」という言葉がまさに、言い得て妙だったんだなと改めて思う。
『ギアッチョは、何もわたしに教えてくれないもの、わたしのことなんか信用してないんでしょ?身体目当ての女でしょ?』
これは俺が、ほんの数十分前にベットの中で言われたことだ。一糸纏わぬ姿からは、違う男の匂いがすることに昨晩から気付いていた。もちろん少しは負の感情が湧き上がったが、それよりも、そんな行為に走らせるほど、自分が彼女を満たせてやれなかったのだという思いの方が上回っていた。『ギアッチョのことは愛してるわ、だけど、もう無理……これで…最後にして』あいつの辛そうな声が、頭から離れない。後部座席には、あと一週間後に控えたあいつの誕生日のために購入したプレゼントの箱が、虚しく座っている。
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テーマ「人外ファンタジー」
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