わたしよりみっつも年下だっていうのに、いつも隼総はわたしを守ってきてくれた。わたしが近所の子にいじめられた時、わたしの代わりに怒ってやりかえしてくれた。それで親に怒られてしぶしぶ謝りに行く隼総の姿を何度も見た記憶がある。自転車に補助輪無しで乗れるようになったのも、もちろん隼総が先で、わたしに熱心に指導してくれたこともあった。いつだってわたしは隼総の背中ばかり見てきたのだ。それがお姉さんとして少し悔しくもあり、隼総に恋心を寄せる女の子としてそんな隼総が頼もしくもあった。複雑な乙女ゴコロといったやつである。年月が経って、わたしたちは前のように毎日一緒に遊ぶことはなくなって、わたしが中学校に入学してからは、部活や勉強に追われ、ろくに顔を合わせなくなっていった。隼総も隼総で、所属していたサッカーチームの活動に明け暮れていたらしい。そんな変化が寂しくもあったけれど、心の隅っこでしかたないと思っている自分がいた。始まりさえあやふやな初恋は心の奥底にしまって、いつかこの想いを笑い話にできるようになった時に取り出せばいいのだ、と。しかし結局その想いを取り出したのはわたしが中学校を卒業してすぐのことだった。
天河原中学校に入学した隼総は、ずっと続けてきたサッカーをするためサッカー部に入った。入学が決まったときは、隼総に会って「おめでとう」と言ったし、隼総もそれに対して「あぁ、頑張るよ」と笑っていたのに。しばらく経って、隼総のお母さんからうちに直接連絡があったのだ。なんだか英聖の様子がおかしいから見てやってくれないか、と言われ、わたしはすぐに家を飛び出した。いつも隼総がサッカーの練習場所にしていた場所に行けば、怖いくらい強く、何度も何度もボールを蹴り込む隼総の姿が目に入る。しばらく声をかけることが出来ず、わたしは隼総をただ見つめていた。
「隼総、」
やっと喉から声を絞り出せば、隼総は思い切りこちらを振り返った。その目を見たときにわたしは気付いてしまった。隼総は今、苦しんでいるんだってことが。隼総は、なんでもひとりで出来てしまうから、いろんなものを抱え込んでしまう。そのくせ抱え込んだものをすぐに解決できるほど器用じゃないから、隼総がだんだん辛くなっていく。
「悩んでることがあるなら、話してよ」
陳腐な台詞で隼総が救えるなんて思ってなかったけれど、隼総の鋭い目に睨まれながら、「部外者に俺の何が分かるんだよ」とはっきりと伝えられた時は、心が苦しくなった。わたしにいつも優しかった隼総がそんなことを言ってしまうくらい辛い思いをしているのだと思ったら、自然と涙が零れ落ちた。
「隼総、隼総が正しいと思うようにして、それがどんな結果になっても、わたしは受け入れるから、わたしはどんな隼総も受け入れるから…!だって、わたし隼総のことが、」
そこまで言ったわたしの身体は、もう隼総の腕の中にあった。
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -