「雨、……降ってきちゃった…」
今日の晩御飯の買い出しを済ませて、空調が効いて涼しいスーパーから外に出れば、大粒の雨が降りだしていた。ここのところ夏なのか梅雨なのか、よくわからない不安定な天気が続いていたから気を付けなきゃとは思っていたけれども。
「あーあ…タイミング悪いなあ。」
ぽつりとそう呟けば、ガラガラと音がして、店内から店員さんが一本500円と書かれた安っぽいビニール傘が入ったカゴを引っ張り出してきた。(買えってか…?)
でも私は今500円玉貯金をしているのでわざわざ500円を手放す気にはなれなかった。それが千円で出して500円玉が返ってくるとしてでも、である。……飛鷹さんが王子様みたいに現れてくれないかなあ。「…ナマエ、迎えに来た。さあ、帰ろう」とかなんとか言ってくれて、それで私が濡れないように気を遣いながら歩いてくれるの!ひゃー!飛鷹さんかっこいい!
「…なに気持ち悪い顔晒してんだブス。」
「なっ!?……あ!あきおちゃん!」
私が幸せな想像に浸っていたら、辛辣な一言が飛んできたので現実世界に帰ってくれば、そこには呆れ顔をしたあきおちゃんが立っていた。
「その呼び方やめろ…。つーかこんなとこで何してんだよ。」
「お買い物したんだけど、ご覧の通り雨が降り始めてしまったのだ!」
どーんと胸を張る私に、胸を張る意味がわかんねぇし、まな板のくせに胸を張るなとあきおちゃんは律儀に突っ込みを入れたあと、先程店員さんが店頭に出した傘たちにちらりと目をやった。あ、さっきより2、3本減ってるかも。やっぱ買う人いるんだなあ。
「ならそこの傘買えよ。」
「いや。」
「はあ?金ねーの?」
「あるよ。」
「意味わかんねぇ。」そう言ってため息をついたあきおちゃんは、自分の傘をたたみ始めた。ほう…私はまた一つあきおちゃんのギャップを見つけてしまった。それは、雨に濡れた傘をたたむときは、ちゃんと先に水を払うところ。結構ちゃんとしてんだよなあこのモヒカン。そんなことを考えていたら、なんか今失礼なこと考えてるだろ。と睨まれてしまった。野生の勘なの?読心術なの?とにかくあきおちゃんは色々と凄い。
「とにかく!あきおちゃんは傘をここに置いて中で用事を済ませてくるがよい!」
「テメー…借りパクするつもりだろ。」
正直にうん。と頷けば、あきおちゃんはわざとらしく額に手をやった。
「…………はあ、もういい。送ってやるから待ってろ。」
「え?いいの?」
思わず聞き返すと。予想外に優しい声音で別に俺は構わねぇよ、と返ってきたからもっとびっくりした。変な物でも食べたのだろうか…、例えば飛鷹さんの手料理とか。
「…で?なんか言う言葉があるだろ?」
「え?えーと(なんだろう…?)…迎えに来てくれるならあきおちゃんじゃなくて飛鷹さんがよかったです、とか?」
殴られた。