こねた | ナノ
※スロウの捨てネタ

今日は雨の為、練習は各自足りない筋力を補うトレーニングを行うことになった。総帥に指示されたメニューを一番早く終わらせると、鬼道がみょうじに、もうすぐ皆のメニューが終わることを伝えてきてくれと俺に指示を出す。


「俺だ…入るぞ。」


不動には馬鹿にされるのだが、部室にみょうじしか居ないと分かっているとき、俺は必ず部室のドアをノックしてしまう。お前の部室でもあるんだからンなことする必要ねーだろ、というのが不動の意見だが、この癖は定着してしまった。部室のドアを軽くノックし、ドアを開けると、そこには目を赤くしたみょうじがいた。


「なっ…!」
「あっ…!源田くん!」


すぐに背を向けたみょうじは目をこすり、涙をぬぐったようだ。ど、どうしたの?と俺にたずねる声は、少し掠れていた。


「あ、あぁ…もうすぐ皆のメニューが終わることを伝えに来たんだ。」
「わかった。タオルとドリンク用意したやつ持ってくね。」
「「…………」」
「………何かあったなら話してみてくれないか?」
「な、にも…ない、よ?」


にこり。作り笑いを顔に張り付けたみょうじにずきんと胸が痛くなる。大丈夫だから、とうつむくみょうじをそのままほっとける訳がなかった。


「みょうじは帝国サッカー部の一員だ、仲間だ。みょうじのそんな顔を見てほっとける訳がないだろう?」


前に、小さい子を泣き止ませたり、安心させるためにはまず目線を合わせる、というのを何かの本で読んだことがあるのを思い出し、かがんでみょうじの目を見てみる。するとそれは効果てきめんだったようで、みょうじの目はみるみると潤んでいき、涙がこぼれ落ちた。


「う…っ……うぅ…違うクラスの人、に…ブスって言われ、るの……毎日…」
「ブ、ブス…!?」


うちの部のマネージャーだから贔屓目に見ているわけではないと思うが、みょうじはかなり可愛い。小さいし、いつも笑顔だし、一生懸命なところとか、みんなから好かれる要素をたくさん持っている。


「鬼道さんに挨拶みたいなものって言われてたけど、…不動くんとか、佐久間くんにブスとかノロマとか言われたことやっぱり本当にそうなんだって思ったら、…っ…うぅっ」


そこまで言ってみょうじは手で顔を覆った。そうか…最近暗かったのはそのせいだったのか…。一つ納得した俺はみょうじの頭を撫でた。


「みょうじはブスじゃないし、不動や佐久間のは挨拶…というか愛情表現なんだ。…その違うクラスってのは女か?」


こくりと頷いたみょうじに俺はため息をつく。みょうじにそんな暴言を吐く女の理由なんてひとつに決まっている。


「…嫉妬だよ。みょうじは可愛いからな。」

俺がそう伝えた瞬間勢いよくドアが開いた。みょうじと二人で振り向くとそこにはサッカー部が勢揃いしていた。


「な…ななな!なにやってんだ源田!」
「なまえ先輩泣いてるじゃないっスか!」
「源田…何があったんだ?」
「馬鹿か!見りゃわかんだろ!」


上から佐久間、成神、鬼道、不動。咲山と辺見はみょうじを保護するように俺から引き剥がした。中でも不動はかなり頭に血が昇ったようで俺の襟を掴み、みょうじに何かしたのか!と怒鳴った。(やっぱり不動はみょうじが好きなんだなあ)


「…不動がみょうじに暴言を吐くのは一種の愛情表現だ、と伝えたんだ。」
「は!?えっ…はぁ!?」


驚いて緩くなった不動の力。俺は手を払いのけて、みんなに訳を話した。




「……っなんだよそれ!意味わかんねぇ!なんでみょうじがそんなこと言われなきゃなんねーんだよ!」
「落ち着け佐久間。」
「鬼道さん、だけど…!」


怒りに顔を赤くする佐久間を鬼道が制する。ずっとうつむいて涙をこらえるみょうじの両肩を鬼道が掴んだ。


「みょうじ、俺達はそんなふうに思ったことはない。みょうじは…」
「なまえ先輩は可愛くてすげー優しいっス!!」


鬼道の言葉を引き取って成神がみょうじの前で微笑む。その横から辺見と咲山も口を開く。


「みょうじはすげーマネージャーの仕事頑張ってくれてるし、俺達は助かってるんだ。」
「みょうじがいなきゃ、上手く回んねーよ。俺達の練習。」
「みんな……。」

みょうじは皆の言葉に顔を上げ、涙目ながらも、嬉しそうな表情を浮かべた。そこでそれまで黙っていた佐久間もそっぽを向きながらもぼそりと呟く。


「つーか…お前は………か、可愛い…から心配すんな。」
「佐久間、くん…。」


再びみょうじの頭を撫でて、笑いかけると、もう一度ぐいっと涙をぬぐったみょうじが今日一番の笑顔を見せてくれた。




(咲山、行くぞ。)
(ああ)
(どこに行くんだよ不動。)
(決まってんだろ、デコ見)
(デコ見ゆーな)
(…みょうじにそんなこと言った奴、ちょっと殺ってくる)
(咲山先輩が言うとまじにしか聞こえない…)
(つーかみょうじを泣かせていいのは俺だけなんだよ!)
(やっぱ不動はみょうじを大切に思ってるんだなあ)
(源田…不動をほのぼのした目で見るのはお前くらいだよ。)

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